手で見る美術

日帰りで横須賀へ。横須賀市美術館(の建設反対運動とその波及効果)の調査をしている。
今日は、美術館開設準備室が主催するワークショップ・イベント「手で見る美術―視覚障害者の美術鑑賞 ピカソの絵を手がかりに」を参与観察する。ラ・ヴィレット視覚障害者アクセス部門主任のホエール・コーヴェストさんによる画像を交えたお話。コーヴェストさんのお話は、調査を超えて興味深いものだった。http://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/museum/event/work2006-ho.html

お話の途中で、参加者全員、見えない状態で手のひらの上に渡された小物を、めいめい触覚で認識する。対象物の面をたどり、次の面との境目から次の面を触っていくことで、私たちは物体を認識している、とのコーヴェストさんの解説。2次元で作成したものを組み立てて3次元を正確に再現する。その1例として、ノートルダム寺院の平面図、立面図、正面図の3面から頭の中で正確に立体像を描くことができることの説明。マチスピカソの絵が、形の簡素化、グラフィック化を行い、線に圧倒的な活力を求めていることの説明。絵の構図を概念として把握することが必要で、画像が作られるプロセスが理解できれば、物体を絵画として表現できることを把握できるという。この本質は、経験と学習によって学びとらねばならないことで、絵画表現のプロセスについて学ぶ研修は、ラ・ヴィレットで7年前から企画されているという。

最後に、ギャラリーTOMの岩崎さんから補足説明があった。コーヴェストさんは2次元と3次元を行き来することによって、空間認知システムを作り上げた。日本の触図は、建物の輪郭をなぞるだけ、あるいは、絵画の風景を線で描いているだけで奥行きが分からない。認知の訓練は、ラ・ヴィレットが一番進んでおり、だから今回コーヴェストさんをお招きした、とのことであった。

個人的には、コーヴェストさんが、「マチスの官能的な絵をぜひ、触ってふれてみてほしい」と言われたことや、ピカソのミノタウルスの絵の解説が興味深かった。マチスの絵は、何がいいんだろう、と今まで思っていたけれども、こうして解説を聞くと、絵の見方も変わりそうだ。マチスのダンスする女性のシリーズ(1940年代)と、ピカソがアンティーブ城で制作した作品(1946-47年)が、触図として立体的に転写されているという。ピカソが複数の視点を持って描いたことを、1枚の絵の中で、3つのウニが、横から、上から、断面図、と描き分けられていることなどを画像を交えて解説していただいた。

参加者は、開始時点で50名程度。終わる頃には60〜70名程度。藤田さんの通訳も好感度大。

このあと、横須賀市議会議員の佐久間則夫さんにインタビューをさせていただく。
ここで現実に戻り、公立美術館が直面している厳しい状況を再確認。こちらも圧巻である。

追記:この文章を書いてから、佐久間さんのHPをチェックしたら、もう、今日のWSの内容と佐久間さんのご意見が、アップされていた。http://www3.ocn.ne.jp/~sakuma21/#bijutsukanWS
WSの内容も、私が書いたものより分かりやすい。さすが建築デザインを学んだ方だと、同じ場に居合わせてもこう書けるのね、と、己の至らなさを今日も反省。