馬琴な夜

 昔、塾講をやっていたとき、テキストの中に、滝沢馬琴を描いた文書があった。馬琴は文章を書き出して興に乗ると、銀河の流れのようなものに身を任せて、夢中で筆を走らせ続けるのだそうだ・・・。
 うまくその文章は再現できないが、年に一度だけ、私にも馬琴な夜がある。
 今年はなんとなく、昨日のお昼頃から、そんな前兆があった。書けなくてつらい時間がずっと続いて、急に「これから論文を書く若者のために」を学会発表の前日なのに、開いてみたりして、でも最初のイントロが自分の気にいったように書けると随分楽になる。そこからは延々と細かい作業をして、そろそろ家を出ないとまずいんじゃないか、という頃には作業を中断するのが嫌になる。新幹線の中でもずっと書き続けて、福島着。
 おなかがふくれた夜11時ごろ猛烈に眠くなるが、寝てしまったら間に合うわけないので、我慢して(この時が一番辛かった!)、メールを受信したら、ロンドン出張中のHさんからメールが届いていた。短い返事を書いたけど、送信したら戻ってきてしまった。うまくつながっていないらしい。こちらも旅先だし。
 で、ちょっと目が覚めて、いい感じの有線放送が入っているのに気づいて、あとはBGMをかけながら原稿を書き続ける。・・・そして明け方、これでは絶対に終わらないと、分かってくる。明るくなるころ、大決断をして突然後半はカット!(今後の課題とか言ってまとめてしまう。)いつも思うことだが、書きたいと思っていたことと、書けることのギャップのおおきさ(単純に一晩でどこまで書けるかなんだけど)を思い知らされる。
 私のような人間でも、頭の中では、クレヨンしんちゃんのように「あんなこともこんなことも」書きたいと、こんな表をつけたいとか、いつも最初は思っているのである。
 で、学会発表をすること以外の雑念はすべて消えて、確かに普段とは全然別の、ハイな状態になっている。一定時間以上、集中してやっていると中毒みたいになるのか・・・・
とにかく、無事、自分の発表は終わった。「あんなこともこんなことも」課題はたくさん残ったのだが。