『知事と補佐官』

 久保孝雄『知事と補佐官 長洲神奈川県政の20年』(啓文堂、2006)を読み終わった。小説よりも面白く、電車やバスの中で延々と読み続けた。
 この本を知ったきっけかは、横須賀市議会議員のフジノさんのHPの記事だ。http://www.hide-fujino.com/diary.htm(2006年10月5日分)の中で、「見直しされる湘南国際村」の文字に驚いた。調べてみると、昨年末、今後の開発の断念を県議会が決定した、と、じゃらん堂さんのブログ「湘南国際村じゃらんhttp://shonanvil.exblog.jp/m2006-07-01/#3850237(2006年7月1日分)に書かれている。湘南国際村K-FACEのスタッフの方々には、調査の際に随分とお世話になった。ホテルも立派なものがあるが、交通の便が悪く、最近では、私も汐入や川崎に宿泊している。複雑な心境だ。ただ、この本の中には、期待した国際湘南村のことは、通り一遍のことしか書かれてなく、その意味では不満が残った。知りたいことは何も書かれていない、と言うべきか。
 それに対し、池子米軍家族住宅建設問題については、著者の立場、心情からかなり突っ込んだ記述がなされている。私の編入時代のゼミ仲間に逗子出身者がいて、「守る会」の運動のことを当時聞きかじったり、富野さんが大学に講演に来られ、それを聞きに行ったり、と、昔なつかしい感じだが、県の側ではこのように動いていたのか、と新鮮な驚きを持って読んだ。
 そういうことはともかく、著者久保氏が補佐官、副知事を務めた1975年から16年間の神奈川県政の動きが、大きな政治的経済的潮流を踏まえながら平易かつ興味深く記されている。久保さんの初期の仕事は、知事のスピーチライターだったこと(だから文章がお上手なのか?)、多忙になった久保氏を支える人材として、久保氏が雑誌論文を読んで気に入った後藤仁さん(博報堂勤務)を、2年がかりでスカウトしたことなど、特に第一章が面白かった。またさまざまな政治家や学者の名前が登場し、この人はこういう風につながっていたのね、的な発見が多々あった。
 全体を通しての解題は、本書の企画・編集担当者である礒崎初仁さんが、著者に近い立場だからこそできるのであろう、鋭いまとめや課題の指摘をコンパクトに書いておられ、あえて言葉を足す能力は、私にはない。