地理学談話会

 半月ほど前、母校のK先生から電話がかかってきた。とても頼みづらそうに話されるので、何かと思えば、近年めっきり元気のない後輩たちに、私の体験談を話してもらえないかという依頼だった。落ちこぼれの問題学生が紆余曲折を経て就職するまでの物語だが・・・。悩み多い若い人たちが、変な話を聞いてかえって落ち込みはしないかが心配だった。
 で、今日その当日で、久々に、本当に25年ぶりくらいに、地理学の教室を訪ねた。建物も共同研究室もすっかり新しくなっていて、浦島太郎の心境だったが、部屋が新しく広くなっていても、室内の空間配置がほとんど変わっていないのに驚いた。
 K先生が、系統的な授業をするようになったのが、かえって学生のためにはよくないのかと迷う、と言われたのが印象的だった。私たちの頃は、学部の授業は、先生が今書いておられる論文をノート講義されるなど、難しくてよく分からないものが多かった。K先生は、断片的な研究を見せたほうが、学生が自分で研究を開拓していけるのではないかと。
 確かに、概論的な授業をきちっと教えてしまうと、学生はその枠にとらわれる。自由な発想をはぐくむとは、そういうことか。
 私が喋ったのは、お昼のOB交流会の部で、1時間ほど、ざっと高校時代から今の職場に就職するまでの話をして、あとは質問に答えるという形になった。今までに聞いたことのない話で驚いたと学生には言われたが、これは第一層で、バームクーヘンのように第二層、第三層・・・とあってね、と煙に巻いてしまう。
就職活動を始めた男子学生に、本当にやりたいことって何ですか?と聞かれ、はじめは研究のことを答えていたが、彼の悩みは、面接でその会社に入って何がしたいのかが言えないということらしい。翻って、私自身のやりたいこと、例えば1冊は本を出したいとかいうのは、実は形にすぎなくて、ではその中身は何が書きたいのか(何を伝えたいのか)と気づかされ、私としては虚を衝かれたような気がした。
 午後からは本当の談話会で、院生とOBの研究報告。この形式も、私が学生の頃からちっとも変わっていないし、何でもありの幅の広さも昔通りだ。報告を聞きながら地理学の固有の方法論って何だろう? と考える。
 懇親会で盛り上がり、さらに初対面の後輩(と言っても皆さん私よりはるかに有能な研究者だが)と数名で2次会へ。全く利害関係のない方たちと楽しい時を過ごす。