『地方交付税 仕組と機能』

takibata2007-01-04

 岡本全勝『地方交付税 仕組と機能』(大蔵省印刷局、1995)を読み終わった。2日から読み始めて丸3日間費やしたことになる。密林の中に踏み込むような、面白いが何度もうたた寝をしてしまうという不思議な本。自分の関心から言って、第5章「基準財政需要額」のところが一番面白かったが、第6章の「基準財政収入額」に及んで、こっちもこんなに複雑なのかとため息が出る。この本でやっと、「測定単位」「単位費用」「補正係数」というのがどんなものか、おぼろげながら理解することができた(本を見ないで説明しろと言われたら無理だけど)。よくこんな精緻な(?)制度を作り上げたものである。
 岡本さんは、普通交付税の算定を簡単と書かれる。

 ところで「交付税の算定は複雑でわかりにくい」という声もある。しかしながら、普通交付税の算定は[単位費用]×[測定単位]×[補正係数]という基本的に簡単な算式で行われていることを理解していただけたであろう。また、これ以上簡単な算式はありえないと思われる。(pp.154−155)

 このあと、地方公共団体に対する国庫支出金は合計約15兆円、地方交付税も合計15兆円、国庫支出金の方には、膨大な件数の補助金ごとに複雑な申請・交付手続きがあり、件名だけを並べた補助金総覧だけでも1000ページ、各補助金ごとに交付要項が500〜2000ページ、このような補助金が2300件もあると続く。それに対して、地方交付税の計算方法はすべて法律・省令に明記してあり、解説書もたった(!)1000ページ、と書かれている。

 次に担当者の数を見ると、交付税の場合、国の交付税課は17人、各都道府県には、都道府県分(財政課)1人、市町村分(地方課)1人、そして各市町村に一人程度の担当者がいる。これに比べ、国庫補助金の場合には・・・

と続くのである・・・省庁間の争いを垣間見るようだ。
 それはさておき、岡本さんはともすれば無味乾燥になりがちな内容の本をできるだけ楽しく読ませようと努力をされ、面白い事例が取り込まれている。例えば、「坂道補正」。

 例えば、坂の多い町は、平坦な町より行政経費が多くなるので、「坂道補正」を適用してほしいという要望がある。しかしながら、現在、日本全国の各市町村ごとに坂道の多さを測った統計がないこと、また、坂道の多さに応じてどれだけの行政経費が割高になっているか分析できる資料がないことから、「坂道補正」は実現していない。(p.139)

1995年という出版時期の影響を色濃く受けて、最後の方は「ふるさと創生」事業や「公共投資基本計画」達成のための方策が書かれていて生々しい。バブル崩壊後の景気対策地方財政が駆り出されていった歴史の生き証人のような内容になっていて息をのむ。これは岡本さんが立場上、当時の政府の意向に合わせて書いたのか、ご本人もそう信じていたのかは不明である。「ケインズ経済学は、一時、批判の対象となったが、現在なお政府において採用されている考え方である」(p.264)。
奇しくも、今日の岡本さんの日記ケインズ政策に対する言及があるのが興味深い。
 この本は、地方交付税制度を知るための基本的なテキストで、ぜひ手元に置きたい本だが、品薄になっているようだ。Amazonで注文したが、当分届かないようなので、相互利用で他大学の本を借りている。本書の目次や岡本さんのその後のお仕事の様子はご本人のHPをご覧いただきたい。
 以下、余談だが、犬税というのが昭和20年代にあったらしい(p.183)。だいぶ以前に読んだ本の中に、税務関係のお役人が通勤電車の窓から外を眺めながら課税対象を物色して、猫税、電柱税・・・と空想するシーンがあったと記憶しているが、本当に犬税、牛馬税、ミシン税などなどがかつてあったらしい。

 写真は、のとじま水族館(2006年12月28日撮影)。今年も新・カメの1年。