浜口哲一さんからのご意見

 続いて、今日いただいた、平塚市博物館の浜口哲一さんのご意見を、ご本人の承諾を得て転載します。「中間報告を読んでみると、内容的な議論が不十分なままに、制度の検討が先行しているようで、いろいろ不安を感じました」とのことで、「できるだけ多くの声があがった方がよいと思いますので、ぜひ意見提出をご検討ください」と書かれています。中間報告に対する浜口さんのご意見は、以下のとおりです。

「新しい時代の博物館制度の在り方について(中間まとめ)」についての意見


第1章 博物館をめぐる昨今の動向


 意見1 博物館の現状の中で、登録博物館に比べて、相当施設や類似施設の増加が著しく、館数からみても入場者数からみても後者が大きく上回っていることが指摘されている。しかし、そうした傾向が生じている背景については、考察が不十分なように感じられる。私見では、登録博物館にする目立ったメリットが少ない一方で、登録しないことにすれば各種の制約から自由になれるので、学芸員数などを減らして、少ない投資で施設を開く方向が、多くの設置者によって選択されてきたのが実情ではないだろうか。そのことが、結果的に、学芸員の少ない、あるいはいない博物館を大量に生み出す原因となっていると考える。資料にあげられた学芸員数の統計をみても、登録博物館および相当施設が平均3名強であるのに対し、類似施設では0.5名程度に過ぎないことは、そのことを端的に物語っている。


 学芸員のいない博物館でも、常設展示の見学者による一過性の利用については、十分対応できるであろうが、特別展の開催、出版物の刊行、行事の開催など多面的な教育普及活動によって、生涯学習施設としての役割を果たすためには、きわめて不十分であると考える。


 今回の登録制度改訂の提案についても、そのことが博物館における学芸員の適切な配置と増員を促すような具体的な内容を含んでいないと、現状を追認し、学芸員不在の博物館を認めるような登録制度になってしまうのではないかと危惧を感じる。博物館と、学芸員を持たない単なる展示施設を峻別することも一つの方法であろう。


 意見2 本報告で参考資料としてあげられている各種統計は、館数、入場者数など表面的な利用状況を示すものばかりで、活動の実態を反映したような指標が提示されているとはいえない。新しい時代において、博物館が多面的な役割を果たすべきと考えるならば、その現状把握においても、それにふさわしい活動指標に基づいて議論を進めるべきではないだろうか。特別展の開催回数、行事ののべ参加者数、論文の発表点数、刊行物の総ページ数、収蔵資料点数など、比較的小さな努力で把握可能な学芸活動の活発さを示す指標は、いくつも考えられるので、それらを積極的にとりあげていくべきだと考える。


第2章 博物館とは 2.博物館法上の博物館の定義の在り方
 博物館が有すべき機能について、資料の収集保管、展示による教育、調査研究の3つの項目があげられている。これらが博物館の基本的な機能であることは確かだが、本報告でのとらえ方は古典的で、博物館の実際の姿にそぐわない面があるように感じられる。
 

 まず、資料の収集と調査の関係だが、考古学における発掘調査、生物における分布調査などに典型的に見られるように、博物館では特定の地域やテーマを対象にした調査活動が日常的に行われており、その調査の中で得られた資料と情報が、博物館に蓄積され、市民の利用に供されている。すなわち、調査研究は、館に資料が収蔵された時点で始まるわけではなく、収集を含めた活動として展開されることが多い。もちろん、収集された資料についての調査があることは事実だが、博物館における調査がその部分だけであるかのような表現がとられることは適切ではないだろう。
  

 また、上記に関連することだが、ここでの定義の中に、「情報」という視点が欠落していることも問題である。本報告でたびたび引用されている、アメリカの「卓越と公平」、イギリスの「共通の富」の文書でも、博物館の特性が「資料と情報の蓄積」であることが明確に述べられているにも関わらず、本報告で情報という言葉がほとんど使われていないのは奇異に感じる。ここでいう情報とは、調査研究活動の中で、資料とともに得られ、論文として発表されるような情報もあるし、資料に付随してラベルに記されるようなものも含んでいるが、それらは博物館にとって資料と同等の重要性をもったものと認識すべきではないだろうか。


 教育機能については、「展示することにより、教育や楽しみを提供し・・」と述べられているが、実際の博物館で行われている実際の活動は、展示だけではなく多彩な形で展開されている。そうした現状を踏まえ、「展示、出版、講演会・学習会などの行事、市民との共同調査などさまざまな手法によって、教育や楽しみを提供し・・」といった表現がより適切なのではないだろうか。


 国際的な定義がどうであれ、現実の博物館活動が到達した姿に基づいて、定義づける姿勢こそ、新しい時代への提言にふさわしいと考える。


第4章 学芸員制度の在り方について 1.現状における問題点
 大学での養成課程の内容を充実することなどには賛成するが、既に述べたように、日本の博物館全体として、少数の学芸員しか持たない施設が主力を占めている状況がある。その現状を打開し、学芸員の活動によって初めて充実した博物館たりうるという認識が共通理解にならない限り、学芸員制度自体を改善してもあまり意味がないのではないだろうか。