ベルニナ急行バス編(9月1日)

 国鉄ルガーノ駅前のいちばんはずれに、ベルニナ急行バス路線のバス停がある。ルガーノ(スイス)10:00発、ティラーノ(イタリア)12:45着のバス(5950)と、ティラーノ(スイス・レーティッシュ駅)14:15発、クール18:29着の列車を、これだけは日本から予約して行った。

 早めにバス停に着くと、強い日差しを避けて、10数人程度、反対側のひさしのあるバス停の下で比較的大きな荷物を持って待っている人たちがいる。私もその横でバスを待つ。一人の白人男性が話しかけてきて、“ベルニナに乗るのか?”と聞かれる。やがてバスが来た。運転手さんが指定券をチェック。私以外は白人客ばかりで、たいがい、カップル、家族か4人くらいまでの友人同士という感じで、中高年がほとんど。先ほど、私に話しかけてきた男性は、指定をとっていなかったようで、駅まで指定券を取りに、走らされていた。彼らも無事乗り込み、ほぼ満席状態で出発。座席は狭かったが、私は一人だったために、例外的に隣の席が空いていた。基本的に、みな2の倍数なのだ。

 バスは、ルガーノ湖畔を走る。のちに現れるコモ湖も、進行方向右側なので、右側がお勧めだが、私の席は左側だった。ティラーノ湖畔の途中で、イタリアとの国境を越えた。といっても、トンネルの前に係員が2人いる程度で、観光路線のベルニナは、ノンストップで国境を通過する。ドイツ―スイス―イタリアと移動して来て、あまりの国境線の軽さに、日本がかえって特殊なのではという気がしてくる。

 イタリア領に入ると、民家の様子が、スイスとは違う。石造りの建物を含め、全体につましいたたずまい。2つの湖以外は、特に目を引くような光景はないが、細い道を対向車線とぎりぎりすれ違いながら走っていく。1時間ほど経った頃、運転手さんが、マイクで、カプチーノ休憩を10分取るとアナウンス。車内から歓声が上がった。

 ちいさなカウンターのカフェ。かなりの人数がトイレに並ぶ。カウンターでカプチーノを注文。隣の年配のオランダ女性も、カプチーノを注文した。注文してから、「あら、私イタリアのお金持っていないわ」と言う。私も一瞬ハッとするが、「ユーロでは?」というと、彼女が笑った。オランダはユーロのはず。私もドイツ経由の関係でユーロは持っていた。で、二人で笑って、カプチーノを受け取って、小さなテーブルで一緒に飲んだ。彼女は珍しく、一人旅のようで、話がはずむ。

 休憩時間が終わって、再びバスは走る。今度は、私の座っている左側に、ブドウ畑や山が見え出す。ブドウ畑と民家が、「耕して天に至る」イタリアバージョンのように広がる。休憩時間が予定より長引き、定刻より遅くティラーノに到着。

 イタリア国鉄駅と、スイス・レーティッシュ鉄道駅が並んでいる。イタリア国鉄駅を覗いてから、スイス・レーティッシュ駅も覗く。どちらもコインロッカーなしの小さな駅で困ったが、トイレはあった。

 駅前のレストランはみな満席で、少し歩いて、角を曲がった先で、空きのあるテラス席を見つけた。赤ワイン、奮発してペッパーステーキ(これはおいしかった)、カプチーノ。店員さんも感じがよかった。

 またスイス・レーティッシュ駅に戻る。窓口で、『ベルニナ特急 旅行ガイドブック』日本語版(2000年)を購入。

私達のこの旅行案内書は、経験をお楽しみ頂く事を、まず前提にしたいと思います。そして、当然、あなたの思い出の記念となればよいのです。この本は、更に、自宅に於て、肘掛け椅子に腰かけて、旅を再び思い出して楽しむのにも用いられる事でしょう。

このあと、私たちには、すばらしい旅が待っていた。
写真は、ティラーノ近郊のブドウ畑(2007年9月1日撮影)