『パリ砂糖漬けの日々』

 今朝、注文していた本がドサッと届いた。かたい本が多い中で、一番楽しみにしていたのがこれ(多田千香子『パリ砂糖漬けの日々』文芸春秋、2007)。書評で読んで中身はある程度、想像がつく感じがしたが、読んでみて、やっぱりこういう人っているのね・・・という印象。面白くて一気に読んだ。

 12年半勤めた朝日新聞を辞めて、単身、パリに飛び、パリでアパートを買う。料理学校の製菓課程と語学学校に通い、フランス人の理不尽とたたかう日々。配達も工事も、日本のようにはいかず、自分でやるっきゃない!となる。

 面白いのは、30女として、時間をとても大切に考えているところ。料理学校の中級コースの修了式の日、アメリカ人同級生のアンが話しかけてくる。

上級まで授業料も払っているのに、アメリカへ帰るという。「ちょっと、私が思っていた学校とは違ったわ。シェフの実演の後、拍手したり」と細いタバコを吸いながら言った。
 残念だと思う反面、うなずいた。お互い三十半ばだ。遊びで来ているわけじゃない。無駄だと思ったらバッサリ切って捨てないと。私だって料理学校は続けるけど、日本を出発する前、慌てて申し込んだ語学学校は辞めた。・・・授業料は惜しい。でも時間はもっと、もったいない。胸もサイフも痛んだが、行かなくなった。

ちなみに、料理学校製菓課程の授業料は、200万円だそうだ。アリアンヌ・フランセーズと、ソルボンヌ大学付属フランス文明講座にも通った著者は、最上級コースにたどり着く。修了試験には失敗するが、「渡仏一年半で初歩から最上級に進んだだけすごい」と言われる進歩。アパートも、持ち物も、売り払って帰国してくる、そのバイタリティーや、パリに住む人々のリサイクル精神に、驚かされる。