日博協研究協議会(美術部門)

takibata2008-02-23

 この1週間は、本当に、盛りだくさんで、何から書こうかと思うくらい。たくさん、いろんなものを見て考えて、大町の調査では、個人的な大発見も2つあった。時系列で書くのが一番、記憶をたどりやすいのだろうが、あえて、一番インパクトの強かった、山梨俊夫先生(神奈川県立近代美術館館長)のお話から。
 ちょうど、移動の途中、今話題のロバート・R・H・アンホルト著・鈴木炎訳『理系のための口頭発表術』(講談社ブルーバックス、2008年)を読み終わったところだったので、どんな講演をされるのだろうとか考えていたのだが、テクニック論をぶっ飛ばす、これまでの館の重み、経験に裏打ちされた、要は中身で聞かせるお話だった。
 以下は、私のメモによる、山梨先生のお話のおおまかな復元。このメモは、以前に読んだ、神奈川県立近代美術館編『小さな箱―鎌倉近代美術館の50年』(求龍堂、2001年)で知りえたこと・イメージを予備知識にしている。メモが自分で読み返して不明な部分は省いた。聞き間違い等があるかもしれないが、お許しいただきたい。文責は私にあり、()はメモを記憶で補った部分。私自身の備忘録と勉強のために書いている。
 ご講演のテーマは「コレクションと学芸員

 神奈川県立近代美術館は、1951年11月、日本初の公立近代美術館としてオープンした。
 展覧会や普及活動(に忙しいと)、自館のコレクションをきちんと押さえていくことが疎かになる。どういう種類のコレクションを持っているか。収集方針は、意外ときちんとしていない。こと細かく作ると、美術館の性格を狭める。大きな収集方針が明確になっているか、(コレクションの)性格づけ、常に意識(する必要がある)。集まってきた作品の集積、美術館が何を持っているか、相手に対するイメージは、そこから育つ。
 自分自身の中での性格づけ、対社会的にどのように見られるか、美術館の体力がコレクションだ。モノと人(は両輪で)、どちらが欠けても、両輪の片方を欠くことになる。国立新美術館は、今までの(コレクションのある館から異動した)学芸員の力で、外目には他館と変わらないが、持続していくというところに、変化していくと息切れ(が起こるだろう)。モノを持っていると、さまざまな状況に耐えていける。お金がなくてもやっていける。
 コレクションの根本は購入だが、文化庁の調査では、半分以上の館が、購入費ゼロ(という結果が出ている)。購入、寄贈、寄託の3本で構成するのが普通の在り方だ。
 (日本では)第二次世界大戦後、六十数年経って、阪神淡路大震災はあったが、関東大震災のような大災害がなく、戦後の美術作品がみんな残っている。先月亡くなられた片岡球子先生は、戦後、60歳を過ぎてからすごい仕事を始めた方だが、作品が全部残っている。
片岡先生は、日本美術院の作家で、院展に出展されてきて、(こうした作家は)それぞれの年を代表する作品を展覧会に出すが、2m×4mの大きな作品で、個人で買う人はいないので、全部、作家の手元に残る。どんな作家でもそうだ。渡辺豊重さんも、大作を中心に400点手元にある。作家は、80〜90歳代に入ると、この作品、どうしようと、皆、思い始める。全国の美術館で、まとまった寄贈の申し出がある。美術館のコレクションは、今、非常に作りやすい。(ただし)、いいコレクションが出来るとは限らない。
 また、コレクターからも、寄託の申し出、保存上怖いので、美術館で預かってくれないか、という申し出がある。作品の中身を見て、寄託を受ける。
 購入予算は700万円。1951年に鎌倉の本館ができ、40年後にできた別館に、はじめて収蔵庫ができた。5年前に葉山がオープンして、鎌倉の本館と、葉山の2つで展覧会をするが、年に2〜3度、現存作家の展覧会をする。都道府県や、市町村では、現存作家の展覧会はやらないという方針を持つところもあるが、(それは)美術館の主体的な判断を尊重する姿勢が欠けている。美術館が選んだ作家の展覧会(を開催して)、マーケットプライスとは違う価格で買わせてもらう。1点(は)寄贈してもらうと、購入と寄贈がついてくる。
 購入もしているんだ、ということで、美術館への信頼が(保てるから)、管理課の人たちに、100〜200万でもいいから、購入予算をゼロにしないで下さい(と言っている)。
 寄贈を受けるのは、無制限ではだめで、基準が(必要だ)。地元で生活している、いろんなジャンルの芸術家がいる。どういうコレクションづくりをするのか、はっきり説明できるだけの方針が必要だ。
 (私たちの)寄贈を受ける基準は、
・ 我々の美術館にすでに作品があること
・ 過去に我々の館で、展覧会をやったことがある人
・ コレクターで、コレクションごと寄贈させてほしいという人。
毎年1件は、(コレクターからの)寄贈の申し出がある。平安時代曼荼羅が、近代美術館の中にコレクションとして入っているが、コレクターがどういう意図で集めたのか、収集の中に、いい近代美術の作品があれば、分散させずにいただこう、近代美術だけでいいです、とは言わない。
 神奈川県にこだわらない。世界に発信していく美術館になるんだ!(ということで)地元作家は多いが基準にせず、神奈川県ゆかりは考えない。展覧会でも、日本、世界の現代美術の中で何が起きていて何が大事なのか、今の美術にとって意味のあることを、その作家の展覧会をやる。(以下、続く) 

文化庁の調査とは、たぶん、これのことだと思う。↓
http://www.bunka.go.jp/bijutsukan_hakubutsukan/chousakekka/index.html
「資料収集費については、300万円以下が4割。一方、予算に計上されていない館が4割」と書かれている。

写真は、横須賀美術館の手前に広がる海(2008年2月21日撮影)