学芸員養成科目案についての意見

 「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」のもとにある「学芸員養成科目に関するWG委員会」から出された“学芸員養成科目案”が問題になっていることは、先日、紹介させていただいた。→http://d.hatena.ne.jp/takibata/20080620/p1
 その後、全博協西日本部会長校から、意見集約のご案内をいただいた。今、封筒を見ると、7月3日の消印になっている。で、その意見提出の期限は今日(7月18日)。やっと書き上げて、さきほどメールで送らせていただいた。固い文章になってしまったが、ない脳みそを絞ったというか。今月があまりに忙しかったので、夜なべ仕事になってしまった。書けて、とりあえず、少しだけ気が軽くなった。これは出さないわけにはいかない。
 自分一人分書くのも大変なのに、とりまとめをして下さる東西両部会の先生方には頭が下がる。お礼を申し上げたい。
 以下が、私の書いたもの。(1)〜(4)の分け方は、まとめ方の指示に従った。

                                                                                                                                  • -

(1)全体に関すること
 今回の科目案は、学芸員養成に必要な、基礎的共通素養を身に付けさせるという意味で、よく考えられた案だと思う。ただし、現在の大学の実情とは相当の距離があり、これだけの科目数を開講できる大学は、非常に限られると思う。国の政策として、学芸員養成数を大幅に削減するのは、一つの見識とも言えるであろうが、その場合には、有資格者が相当の確率で学芸員に採用される必要があろう。年間何人程度の有資格者を養成し、その人たちをどう処遇するのか、またこれまでの有資格者と同列に扱うのか等の全体的ビジョンが示されないままでは、賛否を述べるのは難しい。
 一方、大学教育という観点から見た場合、実習を含む資格認定科目群の教育的意義・効果は大きい。社会を支えるよき市民の養成という観点から考えたとき、私立大学が果たす役割は軽視できないはずであり、私立大学の学生が、資格取得を目標として学ぶチャンスや学習への動機付けを、難関大学や博物館側からの論理で奪うのは、納得しがたいものがある。また、若者の博物館離れが進む中で、博物館関係科目を開講する大学数を減らすことは、果たして博物館文化を維持する上でプラスなのか、疑問である。資格取得とリンクしなければ、大半の大学で、博物館関連科目が開講できないことは言うまでもない。
 なお、学芸員課程を有する大学の側が、モラルを持って資格の乱発をつつしむという自主的な取り組みは欠かせないと思う。科目数を大幅に増やすことよりは、むしろ現状を改善することのほうが、博物館側からの批判に応えることになるのではないだろうか。

(2)単位数に関すること
 学芸員取得のみにしか使えない科目・単位数を増やすことは、現在の私立大学の状況ではかなり難しい。現行の「教育学概論」「視聴覚教育メディア論」等は、教職課程や社会教育主事課程で必要な科目と共通で設置されているケースが多い。
 WG案は、理想としては理解・賛同でき、このような授業をしたいと思うが、大学の実情としては実現困難であり、原案通り施行規則が改定されれば、多くの私立大学で、学芸員課程は維持できなくなると思う。コマ増が困難な理由は、単純にその科目数の人件費増が問題なだけでなく、学内他部署とのバランスを崩すことになるからである(1箇所にコマ増を認めれば、他部署からもコマ増の要望が出ると考えられるため)。
 なお、実際の授業担当者としては、「博物館概論」は2単位では教えきれない。いたずらに科目名を増やすよりは、「博物館概論」を4単位にして、この中に「博物館と地域社会」を組み込むといいのではないか。同様に、「博物館資料論」を4単位にして、この中に「博物館保存科学論」「博物館展示論」を組み込むといいのではないか。
 【A案】「概論」を2→4、「資料論」を2→4、程度の変更が、担当者探しの面から言っても、無理のない線ではないだろうか。【B案】「経営論」「情報論」の単位増(各1→各2)も、理想からは望ましい。理想は、A・B両方だが、両方のコマ増を学内で認めてもらうのはかなり難しいと思われる。

(3)科目の内容に関すること
 「博物館経営論」について。公益法人制度(改革)についても盛り込むべき。倫理、施設・設備、組織、職員、ユニバーサル化、ネットワーク化は、概論の内容に移してもよいのではないだろうか。

(4)その他
 (3)に関連するが、今後、本気で高度な専門家養成を目指すなら、税制・会計に通じた専門家を養成するべきだろう。また我々教員を対象に(学芸員研修に混ぜてくれてもいいが)、公益法人制度改革、保存科学、情報技術等についての研修会を文部科学省文化庁等が開催してくれるとうれしい。

                                                                                                                                          • -

 明日(今日)は、朝から3コマ連続試験監督。寝坊大敵。