全国博物館長会議

 6月10日、全国博物館長会議へ行った。久々の東京、会場が不便な場所で困った(会場内に自販機がなく、干からびた)。それはともかく、お目当ては、午後の部会の「新しい公益法人制度について」。報告者は紙の博物館副館長の樋口造道さん、横浜市文化芸術振興財団の西村雅典さん、佐野美術館事務局長の山本良晴さん。アドバイザーはおなじみ公認会計士の高山昌茂先生。西村さんは、2月の日博協研究協議会(庶務・管理部門)でのご報告の続編。
 ちなみに、紙の博物館は、2009年3月25日に公益認定書受領、4月1日移行登記を済ませ、公益財団法人となった。横浜美術館の指定管理者(共同事業体)である横浜市文化芸術振興財団は、めでたく、6月8日、公益認定の答申が公益法人infomationにアップされ(確認すると、HP上の日付は、6月5日なっている・・・)、7月1日に登記の予定だという。佐野美術館は、あと1〜2ヶ月で申請とのこと。それぞれの取組みや経緯を話していただいた。
 一番印象深かったのは、佐野美術館の山本さんが、「30年後、日本の人口は7,000万人に減るというデータが出ている。この先、寄付など貰えるのか?」と話されたことだ。美術館の将来に不安を抱かれてのご発言だが、とっさに、大学はどうなる?と思った。
 高山先生は、『平成20年度日本の博物館総合調査報告書』に執筆された内容を配られた上で、落とし穴が法人会計であることを強調された。上記報告書をご覧いただきたいが、骨子は以下の通りだ。

 永続的に法人として成り立つかを考えた上で書類作りをしていただきたい。今回、正味財産増減計算書にあたる部分を3区分することが謳われている。公益目的事業、収益事業等、法人会計(管理部門を支えるところ)の3つに計算書を分けて、公益目的をやるところは必ず赤字にならないといけないというのが基本的な考え方だ。この赤字を埋めるのは収益事業等で、その収益事業は管理会計、いわゆる法人会計も支えなければならない。収益事業は確固たる収入を上げ続けられるかをまず自問しなければならない。普通は、収益事業等は売店や喫茶店程度で、実際は赤字かもしれない。他を支えるだけの力がないかもしれない。

 
 公益目的事業は赤字だとたぶんやっていけないので、黒字の中で、将来こういうことに使うということで積み立てる形で、計算上赤字にしている。ここでの落とし穴が法人会計だ。公益目的事業として財産を持つと、2度と、法人会計にお金を持っていくことはできない。

 
 法律は流用厳禁、そうすると、法人会計のお金はどうするのか、という話になる。そこで内閣府はFAQ6−1−3で、収益事業をしていなければ、組織として法人会計にお金がないから、その場合に限り、公益目的事業のお金を流用してもいいという特例措置を出している。しかし、美術館博物館はたぶん収益事業があり、やめればいいが、それはサービス低下につながる中で、収益事業がある場合は公益目的事業から法人会計への流用は禁止。そうすると、よほどお金をはじめに法人会計に持っていかないと、1年間1千万円使うなら、この法人は、何年間生きるつもりですか? 10年間だったら、1億円持って行って下さい。20年間生きるんですか?じゃあ2億円持って行って下さい、30年間生きるなら、3億円持って行って下さい。ということで、はじめからお金を持っていかないのなら、やってはいけない。

 
 分離する3つの、公益目的事業、収益事業、法人会計、この3つを1回走らせてみてほしい。3ヶ月やってみて、本当に貸借対照表が持っているか? ダメならはじめにもどって、もう一度割り振りをし直してもう3ヶ月やってみる。こういうシミュレーションを何度もやって、この3つの部門で何とかいく形に持って行く。やり直しは効かず、はじめで決まるので、はじめに法人会計が持つかどうかの再検討をしてもらいたい。

で、このお話を聞いていて、少し背筋が寒くなった。公益認定を受けられたとしても、財団が生き延びることができるのは、10年、20年、30年という短い期間なのだろうか?博物館の恒久性とは、およそ相容れない話のように思えた。巨額の基本財産を持つ財団なら話は別であろうが・・・・
 某自治出資法人の学芸員さんと帰路についた際、「自治出資法人の場合、法人会計は、自治体からの補助金(?指定管理料も?)で賄われるから、高山先生のお話にあったような心配はないのでしょうね?」と話を振ってみた。もちろん、自治体が、出資法人を存続させる、と決断した場合に限るが。どうもこのあたりが、すっきり理解できない点なのだった。