テート・ブリテン

takibata2006-08-19

 英国滞在最終日の今日はテート・ブリテンへ。私の中での優先順位はそれほど高くなかったのだが、最終日にふさわしい濃厚な体験だった。
 まず、テート・モダンでの失敗を教訓に、特別展2本は、最初にまとめてチケットを買う。共通チケットだと、HOWARD HODGKINが£3.57、CONSTABLEが£7.43である。
 CONSTABLEのは風景画なので、結論から言うと、私は入らなくてもよかった。ただ、高齢者を中心に、英国では人気があるようで、はじめの方の展示室は軽い行列状態である。こういう客層が分かるのが面白い。
 HOWARD HODGKIN の方は、展示室はほどよいすき具合で、一人でじっと見ている人が多い。年代は問わないようだ。HOWARD HODGKINの絵は、額縁(枠)にこだわっていて、中古の、あるいは自作と思しき木製の額縁と木の画面に、額縁まではみ出して、額縁を内部の絵と一体化して彩色している。内部の板の上にもはみ出して、絵の具でさらに大雑把な枠(縁取り?)が描かれている。で、この微妙なはみ出し具合が、私には心地よい。こんな変な絵を見たのは初めてで、変な、というのはもちろん、誉め言葉である。
 HOWARD HODGKINの額縁は、さらに、丸や楕円にも変形していく。きっと、変な人なのだろう。そう言えば、この展示室は、壁が茶色のハケ模様とか、白、ブルー、紫、金色など、作品に合わせてか、色とりどりに塗られている。壁がハケのだんだら模様というのも、初めての経験だ。CONSTABLEの展示室は、赤と白だった。
 無料部分で、Chris Ofiliの展示がある。ここは、木で覆われた別空間の中に入っていくような形で、かなり照明を落としている。奥の方に、10人ほどの人が折りたたみ椅子に座って、トークをしている。エデュケーターが中心なのだが、参加者の意見をしきりに聞いている。やがて、お話が終わって、折りたたみ椅子をたたんで解散。これは、パンフレットには載っていない催しのようだ。http://www.tate.org.uk/britain/exhibitions/Ofili/default.shtm
 12時からのフリー・ガイド・ツアーに参加する。ガイドは熟年の女性で、胸に、テイト・ガイドのバッジをつけている。場所を探してぎりぎりに到着した私に、ハローと声をかけてくれる。参加者は10人程度。
 ハイライトツアーということで、1595年頃の作品からはじまって、1636-7年、1772年、1773年、1818年、1851-2年、1858年(3点)、1891年、1915年、1916年、1917年、合計13点の作品を1時間かけて説明してくれる。彼女の話し方は、身振り手振りを交えてなので、目の前の絵に描かれているものと、私自身の乏しい知識をすり合わせて、分かる部分もあり、分からない部分もありだ。絵に何が描いてあるのかを、丁寧に教えてくれる。一人で見ていると、ざっと見てしまうのだが、こうして解説を聞いていると、絵を見るのは大変なこと(悪い意味ではなく)だということを改めて思う。彼女の説明の中には時代背景の説明も含まれ、こうして50年単位ぐらいで作品を追っていくと、やはりその変化に気づかされ面白い。
 脳みそを随分使ったようで、疲れてしまったが、まだまだ、膨大な無料の(!)常設展が残されている。部屋番号をチェックしながら見ていくが、常設展だけで29室あり、さらにターナー・ギャラリーがある。
常設展の中で、印象に残った絵がいくつかあるが、筆頭は、Cecil Collins(1908-1989)の“The Artist and his Wife”(1939)。この絵の遠近感のおかしなところと、モチーフ(堕落の前の現代のエデン)が、北川民次(の絵2点を合体させたような感じ)と似ているのである。同時代だからだろうか。
 他に、Stanley Spencerのお墓の絵など。現代のコーナーに近づくにつれ、軽快なリズムが流れてくる。映像展示があるらしく、そわそわしてくる。テート・ブリテンに、と意外であった。ターナー・ギャラリーでは、ターナーの小さなスケッチブックなどが公開されており、膨大な完成・未完成作品の量とともに、画業の積み重ねが窺えて興味深い。
 ショップはこれまた圧巻。けっきょくあれこれ買い込み、帰路、カバンを買うことに。ロンドン最後の日に、テート・ブリテンを選んでよかったと思う。