『自治体行政の「市場化」』

 武藤博己編『自治体行政の「市場化」―行革と指定管理者』(公人社、2006年)は、最近読んだこの手の本では、一番刺激的だった。中でも、菅原敏夫氏の「自治体の行財政改革と公共サービスの範囲」は気になる内容だ。本書全体の紹介を書くのは大変なので、個人的に気になったところだけをピックアップすると―。
 菅原さんの講演の中で、「灯台の話」が出てくる。経済学のテキストで、公共財とは何か、の説明例として、「灯台の話」はよく出てくる。ところが1991年のノーベル経済学賞を受賞したロナルド・H・コースが、「イギリスの灯台制度」という本を書いて、「イギリスで灯台は実は水先案内人協会というのが自分でつくって、料金をいろいろな人から徴集してつくってきた。決して役所がつくったのではないということを歴史的に証明しているのです」とのこと。続けて菅原氏は、「つまり、灯台というような典型的な公共財でも役所がなくても提供できるのだということがここでは明らかです」と(p.84)。(この話はどう受け止めたらよいのだろうか?)
 菅原氏は、介護保険制度を例にあげ、「公共サービスに関して自治体がやっていることは『調達』。市場にあるものを買って、それを渡すという形のものが非常に増えているのではないか」(p.73)と。
さらに、「これまで民間委託はこの仕事を民間委託しようと役所の方で決めることができた、あるいはやむなくということがあったかもしれないけれど、役所自身の計画としてこうしたものを腑分けして、これは民間委託、あるいはこれは直営というふうな区別立てをこれまでしてきて、これは指定管理者制度に移行する、これは直営でやりますということをしてきた。ところが、・・・市場化テストというものが制度化されると、そういうふうに決めるのはどちらでやるかということを決める権限は具体的には役所の側には無くなるということになります」(p.77−78)。
菅原氏は、税金の徴収を例にあげ、今後の自治体の仕事は、説明責任(説得)と納税者の側の納得、のような関係の事務に変わっていくのではないか、今後の公務員の仕事は、「専門知識プラス信頼」というタイプの仕事に変える方向にしか生き延びれないのではないか、と講演されている。私の下手な抜き書きでは分からん、という方には、ぜひ本書を直接読んでいただきたい。
 本書の後半のシンポジウム記録は、指定管理者制度にまつわる爆笑事例集にもなっている。いくつか例を上げると・・・
・ 官製NPOの問題点:「一つの施設や組織を運営するために行政が組織を作ってしまうと、その組織はその施設や事業が無ければ生きていけないことになります。行政は自分で作った組織をつぶすことはできないですね。そうすると、仕事は官製NPOに独占させるしかない。・・・官製NPOは、新しい外郭団体の誕生に匹敵する危険性を含んでいるのです」(p.115)。
・ 「先ほど公民館と農業集落施設とコミュニティーセンターのお話をしましたが、作るときには自治体職員の人は本当にがんばるのです。要はどれが一番財政的に有利なのかというところから入るわけです。それがたまたま農業集落施設が補助金が良いからとか。誰も使わない調理室や加工施設が店ざらしになっています」(p.131)。

そのほか、興味深いのは、パネリストの一人、りそな総合研究所の萩原氏の発言。「私自身の職業は、自治体の受託調査を主に行っていまして、PFI関係では、自治体側のアドバイザーになったこともあります。指定管理者制度では、主に応募する側のアドバイザーになったこともあります」(p.119)。自治体の仕事の“脳みそ”部分も、かねてからかなりの部分が民間に託されてきたのではないだろうか。