沖縄シンポ(5)

takibata2006-10-28

 今日は、シンポジウム3番目の発言者、島袋純先生(琉球大学助教授)のご発言をご紹介しよう。以下、行政学がご専門の島袋先生のご発言。

 行政の大きな流れとして、(美術館の問題に対して)どういう対応をするべきだったのか。政府が何をやるべきか。人間が生きていくのにどうしても必要なサービス、市場の原理では賄えないものに対しては、議論をした上でサービスを作り提供すべきである。政府が肥大化したことにより、民間を圧迫する、あるいは税金を取りすぎる、民間でできることは民間へ、と言われているが、全部を民間に任せることはできない。
 1998〜2000年に英国に行っていたが、英国でその当時起こったことが日本にも起こっている。市場の原理に任せ、受益と負担を一致させよう、受益者は適切な対価を払え、という(流れ)である。サッチャリズムでも、教育と福祉には最後まで手を付けられなかった。博物館や美術館は生存権に関わる文化的施設で、市場の原理にはなじまない、ナショナルミニマムである。
 日本では、補助金をとってこられる首長がよい首長で、所得の再分配としては、日本的あり方と言えなくもない。改革の流れの中で、日本では一番最初に福祉・教育の部分に手がつけられている。独立採算化が目標ではないのか? 都市保守層の要求に応えることで、ナショナルミニマムが崩壊する。ポスト構造改革以降の政府の役割は何か?
 美術館・博物館は儲けるための装置という発想もないわけではない。(しかしそういう発想をするならば)政府や自治体がやる必要はない。
 政府・自治体が文化的サービスを提供していくこと、(このことに対しては)開かれた議論の中で情報公開を行いながら、理念を共有する必要がある。(現在は)政治家や政党の役割や哲学を明白にしているところがない。政治的アジェンダになっていない。
 「諮問」というのは「聞き置く」という意味で決定権は首長にあり、首長には(答申内容に)反対する権限がある。(反対した場合は)どうして反故にしたかを、委員や県民に説明する必要がある。実際に答申内容が採用されなかった場合もある(情報公開に関して)。(私たち委員には)できないという紙一枚が送られてきたが失礼な話である。
 県民の代表として(県立美術館基本構想検討委員会、県立美術館建設検討委員会を)選んでいるのなら、平成7年に諮問した計画を(どう考えるのか)。これは哲学の問題で、県民の基本的な権利として美術館をつくるのか、(それをきちんとできないのなら)県知事は、美術館を県民の権利と考えない、と宣言するべきで、明言する必要がある。
 議会の中で、政党はそう表明するべきで、表明すれば、県民が選んだ知事だから(県民も納得するだろう)。稲嶺県政は、説明しないなら、それは欺瞞、偽善である。美術館の問題は、行政トップ、政党の責任である。

 以上は、島袋先生の当日のご発言を私(瀧端)がメモしたものをもとに、復元したもので、文責は瀧端にある。後半は特に私のメモが追いつかなかった部分があり、聞き漏らしや誤解をしていないか、いささか不安である。大意としては、知事が諮問し、答申を受けた県立の美術館の基本構想、基本計画に対して、その後実現できなくなったのなら、それはなぜか、県政の哲学(美術館を県民のナショナルミニマムとは考えないという哲学)を県民や検討委員会の委員に対してきちんと説明すべきである、というご主張と私は理解した。

 当日、島袋先生のご発言を聞きながら私自身が考えたこと。一つは、イギリスのナショナルミニマムについて。確かに、島袋先生がおっしゃったように、英国のミュージアムのある部分は無料公開である(大英博物館や、ナショナル・ギャラリーなど)。ただ、テートモダンやテートブリテンは、常設展部分は無料だが、特別展部分は有料で、それも日本での特別展・企画展料金と比べ高額の料金設定である。
http://d.hatena.ne.jp/takibata/20060730(テート・モダン)
http://d.hatena.ne.jp/takibata/20060819(テート・ブリテン
これはある意味で露骨で、2階建て部分は、一部の人にしか手が届かない仕組みではないだろうか。よくも悪くも、日英の違いかと思う。また英国の小さな町では、公共の美術館・博物館と言っても、とてもささやかなものに遭遇した。http://d.hatena.ne.jp/takibata/20060814
国際比較は、とても難しいものだと思う。また、“無料で見せる”効果に思いを馳せると、それはそれで怖いものがある。ミュージアムを使って、誰が誰に、何を見せるのか、が問題であり、見る側に批判的リテラシーをどう育むか、が大切なことだと思う。
 もう一つの、後半の行政の手続き上の問題は、島袋先生のおっしゃる通りだと思う。あと、一つ、島袋先生が、「都市保守層の要求」と言われた時、少しドキリとした。私の住む大阪府には、府立美術館はない。大阪市立美術館はあるが、仏像がデーンと立っていて、私には美術館という感じがしない。では、大阪府民はどうしているか。美術館に行きたい人は京都や神戸に電車に乗って出かけていて、まあ仕方ないと思っていると思う。沖縄では、電車やバスに乗って短時間低料金で他県の美術館に行くことは出来ないので、美術館建設は(大阪府より)優先されるべきだろう。大阪府民はケチ(合理的?)だから、自前で施設を作らないで、他の自治体が作った施設をちゃっかり利用させてもらっているのかもしれない。と、ここからは交付税の問題を考え始めた。

写真は、首里城で見た「冊封儀式模型」。「汝を琉球国王に封ず」