沖縄シンポ(7)

takibata2006-10-31

 小林純子先生のご発言の続きをメモをもとに復元しよう。数値などは、安座間さんと、「美術館問題についておおいに語る会実行委員会」が用意してくださった当日配布資料で補足確認させていただく。【】部分は、私の補足である。また()は前後の文脈から推定した補足であり、聞き逃した部分には?を付してある。

 (県が10月に明らかにしたところでは)「美術館の学芸員は副館長も入れて6人」(とのこと)【琉球新報10月6日】。(もともと美術館の基本計画では)コレクションの収集には3大方針があり、1.(沖縄の?日本の?)近現代の美術、2.アジアの近現代美術、3.アメリカの近現代美術、を収集対象としている。
 (現在の準備状況では)常設展の展示替えができないのでは? 作品が処分されない前に収集を。作品を保存管理していく活動計画が必要で、収集・調査研究の専門家と、保存科学・修復の専門家は別に人材を確保する必要がある。沖縄の温暖湿潤な気候では、美術作品は本土の数倍の速さで劣化してゆく。本土とは違う保存・修理計画が必要である。美術品資料の管理システムや、県民ギャラリー、屋外展示(に対する人員も必要だ)。調査研究でも、国内外との共同研究(をうたっている)。客員研究員制度も体制として(計画しており、館外?海外?との)やりとり、交流(する人も必要だ)。
 また、教育普及活動では、ワークショップ、公開制作、美術館ツアー、作品解説、パフォーマンス、移動美術館、学校との連携、ボランティア・友の会との連携、など10個の事業計画を立てている。県が提示した学芸員定数では、教育普及活動に何人割くつもりなのか?横浜美術館では、アトリエ担当が8人もいる。
 他に、データベースの構築、美術図書館、ビデオギャラリー、離島関連施設のネットワークなど多彩な活動が、(基本計画には盛り込まれている)。
 指定管理者制度で民間企業に管理を代行させているのは、美術館では全国でも島根県立美術館だけだ。沖縄県では、企画展の一部を指定管理者に任せるとされているが、沖縄には受け皿となる財団がないので、(民間企業が入る可能性がある)。(現在、県では)年6本の特別展の計画のうち、2本は県の学芸員が担当し、残りの4本は指定管理者に担当させる、という案が検討されている。企画展では、館外から作品を借りてくる必要があるが、民間企業(のスタッフが)作品を安全に扱えるのか? 他館に借りに行っても、他の自治体では(美術館に)民間企業を入れないから、出陳交渉に行っても、(民間企業のスタッフには)作品が貸して貰えない。出陳交渉は民間ではできない。(また指定管理者制度によって)税金が民間企業を助けるために使われる。指定管理者制度の中途半端な導入の仕方に問題がある。
 建築規模が2/3に縮小されたので、活動計画を見直す必要があった。実施計画を(県は)県民に示すべきである。「語る会」には美術館の専門家が一人も入っていない。美術館関係者をわざと除いたとしか思えない。レベルの設定、どこまでどのレベルでやるか、単なる数の操作だけをして、指定管理者制度を導入するのは(問題である)。指定管理者制度の導入は、いつでもできる。まずは、直営で始め、既成の財団を梃入れして育成し、財団を指定管理者にする。その間に民間を育成し、(ゆくゆくは)譲っていく(のが現実的ではないか)。美術館の開館を延ばすべきで、(この問題を)克服するのは難しいのではないか? このままでは、県民が誇れる美術館にはなれない。47番目の美術館にはしたくない。日本の文化の枠組みには入りたくない。沖縄独自の美術館を造りたい。今のままでは、完全に日本の経済や制度に組み込まれた美術館になってしまう。このままではレベルが低い、という意味で47番目の美術館になる。

 以上が小林先生のお話を再現したもので、文責は私(瀧端)にある。さて、小林先生の最後の方のお話はカッコいい。「日本の文化の枠組みには入りたくない」の部分だ。指定管理者制度を「日本の経済、制度」の押し付けだ、とする議論はなるほどと思う。
 別の観点から、県が検討しているという「年6本の特別展の計画のうち、2本は県の学芸員が担当し、残りの4本は指定管理者に担当させる」という案は妙にリアリティーがある。現実に他県の美術館での、年間2本は館の学芸員によるオリジナルの企画展、2本は他館と共同で作った企画展、あとの2本は大手新聞社や放送局による巡回展、という年間スケジュールを彷彿とさせるからだ。場合によっては、県展のような公募展が入る場合もあるだろう。この案を立案した人は、なかなか現実を見ている、とか、つい思ってしまった(他館と共同でつくる企画展はどうするのかな、とか余計なことまで考えてしまったが)。
 あとは、もともとの美術館の活動方針。よそでやっている活動が漏らさず入っているようで、では、沖縄の美術館の特色は?と思ってしまう。特に、教育普及活動は、あれもこれもやればいい、という性質のものではないだろう。一方、保存科学や、離島とのネットワークなどは、土地柄ぜひ必要な活動だろう。
 小林先生が戦略的に発言されている時に、余計なことを言ってはいけないのだが、民間に対するご発言には、気になるところがあった。私立美術館や民間企業で働く勤勉、優秀な友人知人たちのことを思い出すと胸が痛むからである。 
 写真は、復元された首里城正殿。