博物館法改正に伴う意見交換会(10)最終回

takibata2006-12-28

 意見交換会の続きを。

Q:大学院は、どの修士課程でも、認めざるを得ないのではないか? 大学の資格は立場によって違うので、集約するのは難しい(と思う)。(案が)現実的ではないということを委員会で発言してほしい。小さい博物館など、庶務会計が主でも、学芸畑でやっている人もいる。庶務会計も、実務経験としてカウントするのか? 実務(経験重視)というのも不合理だ。研究分野をやっていればいいというのも、おかしい。(研究重視というのなら)研究所になればいい。実務経験の定義は困難だ。
 地方自治体にとって、(学芸員資格の高度化は)学芸員を採りたくないと考え、(博物館の)廃止に向かう。指定管理者の導入に拍車をかけかねず、逆効果ではないか。
 他の資格との関連を議論しないと、関係者は納得しない。どうやって実務経験として評価するのか。インターンは実態とはかけ離れたものだ。管理栄養士のとり方(栄養士をなくす)も一つのやり方だろう。いろんな手法がある。厚生労働省は違う手法をとった。
T:議論はなかった。他の資格の資料は提示されている。
Q:図書館司書の議論を委員は気にしてほしい。
Q:教職の専修免許の取り方は、数年で何回か変わっている。上級学芸員学芸員では、どう変わってくるのか? 社会的評価なのか、就職なのか?
T:H8年度の法改正に関わったが、学芸員はピンからキリまでだ。なったばかりの学芸員が海外でキュレーターという名刺を見せると不思議がられる。給与に反映することを考えている。
Q:専修免許はかなりはっきりしたカウントがあるのではないか。
T:実務と実績だ。大学を出て(ビギナーを作り)、経験、研修の場、システムを作って、本当に学芸員だと(言えるような)はしごをちゃんとかけようよという議論をしている。はしごのしくみは、国または都道府県のマネジメント研修だ。
Q:キュレーターとエデュケーターを分ける(という議論はしているか?) 議論がこんがらがっているのではないか。モノについての博物館学芸員と、教育活動は、別のものとして考えてほしい。
Q:短大は切り捨てられ、話題にならない。(現行の学芸員を)学芸員補にするなら、短大は行き場所がなくなっていく。短大を卒業して就職するところは、地方の小さな館で、(せいぜい)臨時採用だ。ただ理解のある場で、(短大卒で採用されて)庶務会計で肩書きも使えないけれども、育ててもらっているという短大の実情がある。短大は、文科省が認めた養成の末端だ。
T:学芸員補は生きるのでは?
Q:現行博物館法では、博物館は社会教育施設になっている。博物館の7割は歴史系の博物館だ。文化財保護法は、資料の保存にウエイトを置いている。文化財保護法と社会教育法の関係がうまくいっていない。博物館を社会教育施設それのみに限定するのではなく、文化財保護法と社会教育法が協力しあいながら、相容れるようなことの検討はしているのか?
 タテ割り行政でもいいが、相互乗り入れ、協力してもいい。何か変えるのならできないのか? 世界遺産文化庁が、自然遺産は環境庁が扱い、(これに)文科省国交省が(絡んでくるが)一つの省庁でカヴァーしきれない場合、関係省庁連絡者会議を開いている。そういったことを、博物館法を改正するなら盛り込めないのか?
T:会議には、(文化庁の)美術館博物館室長補佐も出てきている。
Q:資格の更新制は、役所の中で異動するシステムの都道府県で不利が生じないのか?議論はしているのか?
T:(委員会での議論は)まだないが考慮してほしい。
Q:委員会の議論を聞いていると、都道府県や政令指定都市立の学芸員数の多い博物館を念頭においているのではないか? 地域密着の小規模館のことが考えられていないのではないか? もともと日博協の博物館評価の取り組みでは、各館のミッションに合わせて評価基準を決めるという話ではなかったのか?
Q:養成問題についての意見を言わせてもらうなら、学芸員資質の向上が(求められているのだから)大学での養成科目を充実させ、単位数を増やす必要がある。経営論1単位とかいうのは、少ないし中途半端だ。機能論、展示論すら置いていない。科目の充実が、資質向上の第一歩だ。少なくとも8単位は必要だ。これは教員の負担増になるから、大学は学芸員養成専任教員を置くべきだ。(今回の法改正は)専任教員を置くことにつながる。
 実習を長期化する問題は、現行のやり方がいいのか? 施行規則の3を削除してもいいのではないか。大学側が通年で4単位実習を行う。
 現行の博物館のすべてが正しいとは限らない。博物館にも不都合がある。ものの取り扱いや保存方法など、これでいいのかという所がある。外部の博物館で実習させる意味がない。基本的なことは(大学で教えるべき)。(誰でも)一番最初は素人だ。大学側のコマ数を増やして学芸員養成の資質向上に努めるべきだ。
Q:大学の学芸員養成の見直しが適当かどうか委員会で議論してほしい。博物館によっては、著作権違反のワークシートを作っている館もある。ワークシート1つ作れない学芸員を養成している。
司会:(今日の意見交換会では、大きくまとめると2つの意見が出たと思う)。
①一定年数の実務経験というのは、現実に即さないという意見。5年間というのは、できっこない。将来も分からない、就職もできないまま、(5年間のインターンというのは無理だ)。現行の博物館実習ですら、お願いしきれていない。実習を受け付けない博物館もある。(実習期間を)さらに加えるなら、一定のやり方、枠組みを作らないと無理だ。
②上級学芸員というのは、大学院難民を(助長する)。ランクに相応した社会的枠組みを作らないといけない。どういうふうに受け皿があるのか見通した議論が委員会の中で(行われるべきだ)。
T:私はMさんとは違う考えだ。どの分野の学芸員も、博物館に関する科目を経て専門性をつけるべきだ。例えば考古学であれば、資料の保存や目録(づくりを学ぶべきだ)。
司会:いろんな大学に情報を回して、あらためて考えてまとめた意見を(出してほしい)。全博協として意見を集約して、1月19日の委員会に意見が出せるようにしたい。

 やっとこれで、意見交換会のメモのアップが終わった。当日は熱気ムンムンで、つまり全博協の会員校(ほとんどが私立大学・短大)の養成課程担当教員は、みな自分の首がかかっているので熱くなるのだった。先にも書いたように、特に短大の担当者の心配は深刻で、学内での力関係などから管理栄養士とか図書館司書との比較に思い至るのであろう(ちなみに私には管理栄養士の話等は知識がなく、メモをそのまま復元した。事実関係の照合はしていないことをお断りしておく)。今回の法改正論議を逆手にとって、大学での必要単位数増強案が出てくるところなどは、すごい強気!と思った。しかし、事情は各校少しずつ違って、学内に附属博物館や充実した実習関連設備・資料を持つ大学は、学外の館務実習をやめて、大学内部で実習してしまおうと主張できる。そうした条件の整わない(うちのような)弱小大学・短大はどうなるのだろうか。
 学芸員養成問題については、2年前に「歴史学と博物館のあり方について考える会」の年報『歴史学と博物館』創刊号(2005年3月)に、「学芸員養成課程の実態と模索―私立大学と博物館は連携できるか―」という小論を書いたので、ここでは繰り返さない。ただ、これまで、数多くの私立大学・短大が養成課程を置くことで、博物館のファン層・理解者の拡大に貢献してきたことだけは確かだ。若い人の多くが、いかに博物館と無縁な生活を送り、博物館にほとんど興味を持たないかを、現場の学芸員さんたちは認識してほしいと思うのである。
 と息巻いておいて、さらに残るのは、利害関係を超えた「市民の権利を守るための法」をどう想起するかの問題である。博物館法改正の問題はともすれば、学芸員問題と税制優遇措置の問題に終始しがちであるが、それは順番が違うのであって、そもそも博物館はどうあるべきかが先に来なくてはならない。意見交換会当日も、順番が逆だという発言はしたのだが、当然、自分の喋ったことのメモはとっておらず、どのタイミングで話したかは忘れてしまった。

写真はのとじま水族館の「不思議な水槽」(2006年12月28日撮影)、詳細はまた改めて。