『歴史学と博物館』第3号

 『歴史学と博物館』第3号(歴史学と博物館のあり方を考える会)を読み終わった。力作揃いで読み応えがあった。目次は以下の通り。

歴史博物館の新段階 長谷川 伸
民需要にこたえる博物館運営 山本 一博
博物館・資料館をめぐる最近の状況 田中淳一
管理委託方式の博物館が指定管理者制度を導入するとき 郄木叙子
会員の声 川口明代/角鹿尚計/外山徹/宮田克成/村上由佳/湯川紅美
2005年度 博物館刊行物案内
2005年度 活動記録

 長谷川さんの論文は、始めは随分抑制された書き方だなと思って読んでいたが、ふと、この著者が、越佐歴史資料調査会のメンバーのお一人であることを思い出した。『地域と歩む史料保存活動』と重ね合わせて後半部分は読んだ。(『地域と歩む史料保存活動』を、私はとてもいい本だと思って教育学演習のテキストとして、教育学専攻の学生たちと読んだ。そのときの学生たちの反応をどう伝えていいのか、歴史畑の方たちに理解していただけるか、深く悩んでいる・・・が、そのことは一旦、置いておく。)
長谷川さんの論文の中で気になったのは、「地域のアイデンティティー」という言葉である。あちこち移住して来た身としては、「地域」を地元の人に強調されると居場所がなくなってしまうのである。個人にとっても、『脱アイデンティティ』がテーマになる時代に、博物館を「地域のアイデンティティーを体現する必要不可欠な施設」だと説明することが、果たして妥当なのかどうか。長谷川さんが勤務される新潟市歴史博物館みなとぴあは、指定管理者制度導入例第1号の博物館でもあり、一度、訪れてみたいと思う。

山本さんの論文は、色々な点で刺激的だった。執筆者の意図とは違う点で興味を持ってしまっているだろうが、館建設の経緯が非常に面白い。住民は図書館を要望したが、図書館単独では小額の補助金しかとれないので、複合施設を作ったというのである。
これは本当に「補助金」なのだろうかと交付税との絡みで、まず考え込む。(後で調べてみよう。)しかし、「単純な図書館建設に対する国や県の補助金は小額で、多額の補助金を得るためには一工夫した図書館、つまりユニークな図書館を建設する必要があった」とは。こういうことを全国的にやった結果が、現在の財政難の一因になっているのだろう。
それはともかく、山本さんの館では、“常設展はいらない”と、展示がこまめに変わる“前代未聞の”博物館を作り上げた。また、地域の人々に「地域学芸員」となって一緒に活動してもらう試みは、JECOMSの人たちが関心を持ちそうな内容になっている。
山本さんはこう記す。

われわれ公立の小規模館では、住民の需要がない場合は廃止に、住民の需要があっても自治体直営の必要性がない場合は、指定管理者制度に則った運営に変化させられていくことが、現実化している。しかし、指定管理者制度への移行は、必ずしも悲観的に受け止めなくてもいいのではないかと思う。それは、博物館存続の必要性を認められた結果に他ならないのであって、従来型の博物館運営での存続が難しくなっているということである。・・・博物館の主役は資料ではない、ましてや学芸員などであってはならない。・・・

 山本さんの勤務先、東近江市能登川博物館にも、行ってみたい。

 郄木さんの論文は、指定管理者制度導入で生じた実際的な問題点がリアルに描き出されている。例会報告時よりさらに詳しく説明されており、こういう事例が全国的に報告・蓄積されてくると、指定管理者制度の問題点がより明らかになっていくのではないかと思う。滋賀県の給与改定の話だけは、口頭で聞いても活字で読んでも、こちらに予備知識がないのでよく理解できなかった。嘉田知事のもとで、滋賀県の博物館政策がどう推移していくか、気になるところである。なお、滋賀県では、5年分の債務負担が承認されているというのも、新知見だった。