『雷鳥が語りかけるもの』

 今日は朝から、中村浩志『雷鳥が語りかけるもの』(山と渓谷社、2006)を読んだ。非常に面白く、読み出すと一気に読んでしまった。恩師羽田健三さんに見込まれ、助手として採用された義務から取り組んだライチョウ研究だが、日本と違い海外ではライチョウが人を恐れることや、牧畜国であるイスラエルやヨーロッパでの自然破壊のすさまじさを目にしたことをきっかけに、50歳から本格的にライチョウ調査と保護に取り組むことになった著者の足取りを平易に紹介してくれている。人間と野生生物の住み分け構造が崩壊したことによって、増えすぎたニホンジカニホンザルライチョウの生息地である高山帯に進出し、高山帯の植生を荒らし始めているのだ。
 本の構成のうまさ、中村さんの文章力にも、心ひかれた。
 15章、165-166頁に、2004年に大町市が設置したライチョウの飼育と研究の今後を考える検討委員会の顛末が掲載されている。大町市の会議録検索を引いてみると、以下のような教育長答弁があった(2007年3月定例会[3月7日]、170頁)。

ライチョウ保護センターの実現を目指したらいかがかとのお尋ねにお答えいたします。


 まずライチョウ保護事業につきましては、大町市ライチョウ保護事業計画策定委員会からの提言を念頭に置きながらも、飼育にかかわるパイロットプランにつきましては、国、県等の援助体制も整わない環境下では、率直に申し上げてこの事業を直ちに展開することはなかなか困難な状況にあると認識しております。そうしたことから現在、パイロットプランを凍結していることは議員もご承知のことと存じます。当面は北アルプスライチョウ生息区域内の現地調査を県が計画していますので、その調査と連携をとりながら進めておりますし、また今までに得られた資料を活用しながら、山岳博物館におきましては企画展や講座などを通じて、環境教育を展開しているところでございます。


 さて、国営アルプスあづみの公園にライチョウの保護センターを設置するという案は、公園側に打診をしてきたことは前の定例会でも申し上げたとおりですが、実現できれば市としても願ってもないことであります。去る2月23日に、公園側と市都市計画・国営公園対策課及び山岳博物館職員による会合を持ちまして、ライチョウの繁殖が困難になった場合に備えて、人工飼育と繁殖技術を確立し、セーフティネットを構築する飼育研究体制を整えた施設の設置を提案し、可能性を探ったところでございます。


 その席上、ライチョウ保護事業は本来環境省の取り組むべき事業であり、研究色が強いライチョウ保護センターの設置は国営公園の設置目的にはなじまないこと、また国営公園の運営組織のスリム化や維持管理費の削減が求められていて、財政的な面からも国営公園での事業展開は厳しいとの見解をいただいたところでございます。しかしながらライチョウ北アルプスを代表する鳥でもあり、また山岳都市大町の象徴でもあります。国土交通、環境両省の調整の可能性に期待を残しつつ、今後も具体的な施設の設置や飼育研究体制等について、両者で意見交換を重ね、具現化への方策を粘り強く探ってまいりたいと考えております。以上でございます。

 大町市は、2006年度決算ベースで、実質公債費比率19.5%、2016年まで償還のピークが続くらしい。財政力指数0.467、65歳以上の人口が26.2%(大町市会議録、2007年3月7日・8日)、ライチョウも厳しいが、大町市も厳しい財政運営を強いられていくのだろう。