『歴史学ってなんだ?』

 たどり着いた経緯は忘れてしまったが、ブログを楽しみに読むようになった小田中直樹さんの『歴史学ってなんだ?』(PHP新書、2004)を読んだ。
 第1章は「史実を明らかにできるか」という大問題を様々な角度から扱っていて面白い。「『大きな物語』は消滅したか」という問いに対しては、「『より正しい解釈』を求めつづけるということ」、「『正しい』認識は可能なのか」という問いに対しては、「『コミュニケーショナルに正しい認識』という途」を、答えとして提示している。

 もちろん、「コミュニケーショナルに正しい認識」にせよ、「より正しい解釈」にせよ、まちがいがないとは断言できない以上、最終的なものではありません。それらはつねに再審に付され、よりましな認識や解釈に取って代わられてゆかなければなりません。(81-82頁)

というしごく穏当な話が結論になっている。
第2章「歴史学は社会の役に立つか」のアイデンティティに関わる部分は、以前に、上野千鶴子編『脱アイデンティティ』などを読んだときの印象(記憶)を思い返すと、何かズレを感じ、照らし合わせてみる必要がありそうだ。
この小田中さんの本全体が、ある種の読書案内になっていて、巻末の「おすすめの啓蒙書」をいろいろ読んでみたい誘惑に駆られる。個人的には、第3章「歴史家は何をしているか」の中の「高校世界史の教科書を読みなおす」が一番面白かった。近現代重視の世界史Aの教科書を取り上げ、教科書の行間を読むという作業が行われている。
この『歴史学ってなんだ?』が啓蒙書だとして、専門書バージョンは、同著者による『歴史学アポリア』(山川出版社)になる。後者のあとがきだけ読んだが、小田中さんがフランス在外研究時代に直面された「危機」に触れた部分があり、有能な人ならではの苦労を垣間見たのだった。