ベルン山岳博物館(またはスイス山岳博物館)(2007年8月29日)

takibata2007-09-19

 朝から強い雨。歩く場所は諦めて、今日はベルンに出ることにした。前日、グリンデルワルト駅横の郵便局で買った小包用のダンボールパックに荷物をつめたものを、傘を差して、ミューレンの郵便局に出しに行く。そのまま駅へ。8:52ミューレン発、ラウターブルンネン9:12着、9:20発、インターラーケン・オスト着9:40、9:56発のICE272でベルン着10:51.ベルンのバス・トラムマップを眺めて、3、5、19番のどれかに乗ればよいと理解した。2駅だけバスに乗って、Helvetiaplatz下車。とりあえず、クンストハレ・ベルン(Kunsthalle Bern)に行ってみる。

 場所はすぐ見つかったが、ドアが閉まっていて、どうも空いていない気配。ちょうどそのとき、若い男性が中から出て来て、今は展示替えで開けていないとのこと。横に貼ってあるポスターを見ると、6月2日〜8月26日まで、Allan Kaprowの“Art as Life”という展覧会をやっていたようだ。(クンストハレ・ベルンは、拙稿で言及したことがあるので、一度見ておきたかった。)残念。

 道を挟んだ向かい側に、 Schweizerisches Alpines Museum Bern(邦訳名はいろいろあって、スイスアルプス博物館、スイス山岳博物館、ベルン山岳博物館など)がある。最初、建物が接している図書館のほうに、間違えて入ってしまった。駐車場の側から、改めて入り直す。入ってすぐがショップのレジを兼ねる受付で、とても感じのいい女性が対応してくれる。スイスパスで無料入館できる。3階まで展示がある。どの階に何があったかがあいまいになってしまったが、1階は山岳レリーフが多かった。以下、印象に残ったものを。

 地学展示:ローヌ氷河後退の様子を、1870年、1900年、1979年の写真を並べて比べたもの。

 環境問題:古風な、ボタンを押すと機械の中でスライドが一枚ずつカチャッと変わっていく装置があった。たまたま見たのは、ダム開発の弊害を紹介したものだった。

畜産史:牛の所有権を示す木製の鍵のようなもの。Alpine right tallies(割符)と書かれていた。「87の牛の権利は、23の所有者の間で分割されていた」とも。耳に切れ込みを入れて区別する方法も図示されていたと記憶している。

登山日記:Paul Montandonの“Mountain Tours”(1913.9.15〜1915.7.25)。ページを開いて展示しているのはこの1冊(No.10)だが、この日記は、1874〜1940年まで17冊のアルバムがあるとのこと。解説文によると、含まれている内容は、個人的記述、年代記的記述、ドキュメンタリー的記述、文学的記述。多くの登山家が、このような詳細な記録を残しているとのこと。資料(写真か絵葉書かは忘れてしまったが)が張り込まれた几帳面なノートを見ながら、人が記録を残すという営為とその行く末について思いを馳せる。

【「ベルン山岳博物館」で検索すると、井形啓己さんの山行記録のサイトに遭遇した。これも非常によくできた、読ませるサイトである。日本人も、本当に詳細な記録を残しているものだ。サラリーマンの生き方という意味からも興味深い。】

 奥のほうから、先生と子どもたちの声が聞こえてくる。理科の勉強に来ている様子。その奥の部屋にはベルナー・オーバーラント地方の巨大レリーフがあり、少し高い場所から、自分の見たい山の名前に目盛りを合わせると、その山に焦点があたる小さな室内望遠鏡が置いてあった。脇には、山小屋の変遷を示す模型や写真パネルがあった。

 3階では、ハンズオン展示が多い中、山岳レリーフのつくり方を実際の職人さんが登場するビデオで紹介している映像が面白かった。等高線ごとの地図を貼り付けた薄い板を糸鋸で切り抜き、貼り合わせ、ゴムでネガティブコピーをとり、そこに石膏を流し込み、あとは、削って彩色というプロセス。材料一式も横に揃っている。

 館の玄関横には、寄付を募る立派な封筒が置いてあった。“Bergfenster-Patenschaft”(山の窓の名親?)という制度で、400スイスフランがシルバー、1,000スイスフランがゴールドとあり(さしずめ、年間4万円コースと10万円コースか)、山の名前のリストが同封されていて、自分のお気に入りの山の名前を選ぶシステムになっている。山によって、シルバー、ゴールドに分けられている。封筒の中には振り込み用紙や申し込みカードが入っていて、申し込みもその封筒でできる仕組みだ。

 9月16日に届いた2個目の荷物の中に入れていたこの博物館のリニューアル記録の図書にも、Sponsoren und Donatiorenのページがあり、個人名や企業名が並んでいる。バーゼル美術館の歴史を見てもそうだったが、スイスのミュージアムはSponsoren und Donatiorenで支えられる部分も大きいようだ。スイスミュージアムガイド(Schweizer Museumsfuhrer;2006←この本は、後にスイス交通博物館で買った)によれば、創設1903年、開館1905年、全館リニューアル1990−1993年。 
 ところで、大町山岳博物館が創設期に展示構想のモデルとしたのは、このベルン山岳博物館である。『山と博物館』33−3(1988)には、「スイス山岳会が運営している博物館である」と紹介されている。ただし、設立年は1933年とされている。独和辞典を引き引き確認しないとあとは不明だ。 
 写真は、Schweizerisches Alpines Museum Bernの外観(2007年8月29日撮影)