クールからチューリッヒ国立博物館へ(9月1日・2日)

takibata2007-09-28

 クールでも、ホテルの場所が分からない。駅員さんに尋ね、だいたいこの辺だと思う、という地図を書いてもらった。ベルニナ急行の他のお客さんたちは、大半がそのままチューリッヒ行きの列車に乗り継いだ模様。

 地上に出て、これまでの観光地とは違う、工業都市の面影に驚く。これが普通のスイスの街なのかと。どうりで、日本で売られているガイドブックにクールのページがないはずだ。駅員さんの地図を頼りに歩きだすが、距離感の違いからか、皆目分からない。親子連れに尋ねて、反対側だと知り、さらに大通りで、テラス席のテーブルセッティングをしている店員さんに尋ねたところ、非常に的確な地図を描き、説明をしてくれた。郵便局がここで、ピッツァリア・ママミーアがここにあり、橋を渡って・・・と詳細に教えてくれる。10分くらいかかるとのこと。荷物を下げて、さんざん迷ったあとの10分は辛かったが、このあたりは、なかなか風情のある小公園などもあった。

 暗闇に包まれる頃、ホテルに到着。フロントのおばさんは親切だが、ドイツ語オンリー。久しぶりに、バスタブのあるお風呂に入った。これで、この旅をもう終わりにしてもいいなと思った。帰国後すぐの学会発表がずしりと気にかかっていた。

クールを探検してもよかったのだが、手持ちの資料もなく、朝から思いつきで、チューリッヒに出ることにした。8:16クール発IR768、9:47チューリッヒ着。

 チューリッヒ駅に隣接して、チューリッヒ国立博物館(Schweizerisches Landesmuseum Zurich)がある。国鉄駅自体が、一番端のホームは線路の向こうがそのまま歩道と車道(その先が博物館)という、すばらしいバリアフリー。線路に人が入ると危ないとか、そういう感覚が全くない国で、地方の小さな駅なら、普通に線路をまたいで歩くことができる。個人で危険は回避しなさいということだろう。日本の駅のような階段の上り降りがないのが楽。

 駅から道路一つを渡って、10時開館の国立博物館に入る。一部は工事中で見られない部屋がある。まず、ミュスタイア修道院から一部移築されたフレスコ画などを見る。高い場所にあって、私の視力ではよく見えない。キリスト教関係の展示品の数々。このあたり、美術館と、どう棲み分けているのだろうか。2階に上がると、小ホールでコンサートがあるとのことで、開演前30分ほどあるのに、もう中で待っている人たちがいる。先に、他の展示室を回る。

 特別展会場では、“Small Number –Big Impact Swiss Immigration to the USA”と“Zurich in the viewfinder 1850-1900”が開催されている。前者は、スイスからアメリカへ移民した人の中で成功者を取り上げたもの。後者は、地味な写真展。コンサートの開演時間になったので、ホールに入る。ミュージアムコンサートを聴くのは生まれて初めての経験。

 この日は日曜日で、小さなホールはほぼ満席。100人以上入っていたのではないだろうか。高齢者ばかりで、普段のお出かけスタイルの人がほとんどだが、ごくわずか、ドレス姿の女性もいる。学芸員風のおじさんが登場し、まずお話。そして始まったのは、特展に合わせたギタリスト2人によるカントリー。下手ではないが、感激というほどの演奏でもない。曲の合間にお話、ジョークを言っているようだ。30分くらいと聞いていたが、結局演奏は小一時間続いた。観客は律儀に曲が終わるごとに拍手をし、アンコールの拍手までする。スイスのシニア層はたいへん礼儀正しい。

 工事中の覆いに包まれた渡り廊下を渡って、歴史関係の展示を見て、中庭で昼食。再び室内に戻ると、たくさんの人が、渡り廊下を渡っていく。何かあるのかとついていくと、先ほどまでロープが張ってあった一角が開いていて、大勢人がいる。狭いコーナーには、身動きできないほどの人がいて、「私の一品展示コーナー」のようなガラスケースが室内に並び、中には番号がついた出品が並んでいる。古い本や、日記のようなものもあれば、工芸品や手作りの品など、一体何だろう・・・。壁際、窓際には、A4サイズの薄い紙箱が並んでいて、番号がふってあって、出品物にまつわる思いが書かれたタイプ原稿が貼ってある。めいめいが、その紙箱を手にとって、熱心に読んでいるのだ。
 その会場の奥では、シンポジウムの準備がされていた。入り口に忘れられていたチラシを拾う。“Ein gewisses judisches Etwas”と書かれ、どうやら、欧州各地で、“Europaischer Tag der judischen Kultur”が行われる、その一環だったようだ。

 なんにせよ、真面目かつ熱心に小箱の中の紙を読む人たちの姿に圧倒された。日本ではちょっと考えられない光景。

 民具や衣装関係のコーナーはこの日は閉鎖されている。考古関係の展示はきれいにレイアウトされているが、一番印象深かったのは、蓋のない等身大の木枠の中に並ぶ人骨の数々。中には、土の中に半分埋もれた発掘当時の様子を彷彿とさせる人骨もあった。

 この日はこのあと、グロスミュンスター(大聖堂)に、シャガール作のステンドグラスを見に行った。行きは歩き、帰りはトラムで国鉄駅へ。
 写真は、チューリッヒ国立博物館外観(2007年9月2日撮影)