『現代によみがえるダーウィン』

 久しぶりに休み〜の気分で、他のことは忘れたふりをして、ハードカバーの本を読んだ。長谷川眞理子三中信宏・矢原徹一『現代によみがえるダーウィン』(文一総合出版、1999)。たいへん刺激的で面白かった。これまで、断片的に読みかじっていた生物系の本が、そういう流れだったのかと、霧が晴れるような気分になった。以下、本書の紹介。

 本書は、前半が鼎談「なぜダーウィンを読むか」、後半が解説「ダーウィンを読み直す」から成る。鼎談では、著者3人がそれぞれダーウィンに出会うまでの研究史が語られ、そこから幅広く内外の科学史に話題が広がっていく。詳細な注がたいへん親切。
 後半では、3人が1本ずつ解説を書いている。矢原さんのパートは、『種の起源』の内容をコンパクトに説明したあと、『種の起源』以降の学問的発展を遺伝子・統計学ランダムウォークの観点から紹介している。またダーウィンが予見したさまざまな淘汰(固体淘汰と群淘汰、血縁淘汰、頻度依存淘汰)について触れている。
 三中さんのパートでは、ダーウィンが指摘した「種の認知的理解」の問題が取り上げられている。ダーウィンは、「種」を不変の自然類ではなく進化する実体であることを一貫して主張し続けたという。三中さんは、記載分類が実践的に役に立っていることを認めた上で、時空的にひろがる系統発生過程を調べるためには、時空的に制約された認知的分類体系ではなく、立脚点が異なる系統的体系化(系統樹)が必要と指摘している。
 長谷川さんのパートでは、ダーウィンが『人間の起源と性淘汰』で取り組もうとした課題と、ダーウィンが生きた19世紀イギリスの社会状況が説明されている。ダーウィンが手がけた性淘汰の理論は、雌雄の違いを説明しようとした最初の科学的な議論であること、また人間の進化と本性に関する研究は、のちに多くの個別学問に発展していく巨大な学問的課題であったことなどが述べられている。
 鼎談の終わり近くに、『人間と動物の感情表現』の紹介として、ダーウィンのアンチテーシス仮説が説明されているが、この話も非常に興味深かった。

ところで、27頁のところで、矢原さん、長谷川さんが日本の科学史の問題に触れられている。問題関心のありかは私とは違うが、ぜひ、戦後日本の科学史の本を書いていただきたいと思う。