『日本を降りる若者たち』
下川裕治さんの『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書、2007)を読んだ。活字が大きくて、薄くて軽くて、電車の中で読むのにもってこいの本。
日本で短期集中的に働いて、お金をためてタイに渡り、カオサンというゲストハウス街やアパートでぶらぶら暮らし、「外こもり」する若者たち。下川さんは、そんな若者たちと、カオサンの路地裏でビールを飲み、アパートに引きこもった人たちとメールのやりとりをし、時にはラオスのビエンチャンで、ラオス人女性との間に子をもうけ農業をしている若者の話を聞き・・・日本社会からはみ出して、「なんとかなるさ」という「ゆるい」空気の中に生きている日本人たちをルポしている。
後半は、中高年の話を扱っている。
東南アジア諸国は、日本からのロングステイを積極的に誘致しようとした。そこには日本の年金をとり込もうとする国家レベルの思惑が渦巻いていた。マレーシア、フィリピンがその先頭を走っていた。これらの国々は、ロングステイのビザ発行条件に、一定額の保証金を現地銀行に預けるルールを設けている。それが銀行の運用資金になる。(167頁)
東南アジア諸国は、日本のような年金制度は整備されていない。日本の年金15万円に対して、タイの大卒初任給は、3万5千円程度。なにもしなくても現地の人より収入の多い日本の老人は、「とんでもない金もち」なのだそうだ。ところが、実際には、日本の老人たちは、年金を使わない。「その背後にあったのは、日本人が抱える老後への不安だった。具体的には年金不安だった。」(169頁)そして、日本より生活費が安いから、と、外こもり組の若者たちよりつましい生活を送る老人たち。
最後の付章「ラングナム通りの日本人たち」は、大学院生の小野真由美さんの寄稿。外こもり組(=日本を降りる若者たち)とは一線を画する、タイ語を学び、バンコクで就職するタイプのもう一つの移住組(ラングナム通り一帯に主に住む)をレポートしている。
ルポルタージュの仕事と「論文書き」の仕事の異同を考えつつ、未知の世界を垣間見つつ、自分自身の旅のスタイルや調査の仕方、老後の生活など考えさせられつつ、軽く楽しく読んだ。ちょっとゲッチョ本に似ていると思った。