日博協研究協議会(美術部門)(5)

takibata2008-02-28

 シンポジウムの様子を。これも、私にとって、特に興味深かった点に限って、個人的メモから抜粋する。

山梨 コレクションは、出来上がるとストップするわけではない。たとえ購入予算がなくなっても、収蔵庫がいっぱいになるのが実情だ。

原田 (収蔵庫は)いっぱい空いているので、葉山の作品を受け入れる(ことができる)。30年くらい(かけて)コツコツ、(作品を)購入したり、寄贈を受けたりしても大丈夫なように、収蔵庫には肩入れして(作ったが、実際に作品を入れてみると)10年くらいしか持たないかなと思ったが、市が予算をカットしたので、30年くらいはもつ。

山梨 葉山館を作るとき、収蔵庫は展示室の3倍いる、3,000〜4,000平方メートルいると言ったが、800平方メートルしかない。30年は絶対もたない。とにかく(作品の寄贈は)受けちゃって、あとの世代に任せよう(と思っている)。原田さん(のところで)預かる(というのは)有難い。

山梨 (収集委員会は)プラス、マイナスあって、(寄贈に)適さないという判断を出せるチェック機構を持っていたほうが安全だが、鎌近には昔から収集委員会はなく、ここ10数年前からだ。(チェック機構があるほうが)安全で、(寄贈を)断りやすい。
 今は、何の問題もなく、美術館の判断で展覧会や購入も行えているが、地元の利害はどこの美術館でもある。鎌近(には、開館)25年近く経ってから入ったが、開館当初は同じ問題があった。地元作家の宣伝カーが走って、土方定一館長に(対して)“土方なんて死んじまえ”(と言って走っていたこともあった)。地域で生活している作家が(いて)、自分たちの美術館(だと思って)、どういうふうに参加できるのか。
 最初は、美術館の主体性を確立するまでは大変。(私の場合は)そういうことができる体制ができてから、美術館に入ったからいいが、美術館はそこをくぐり抜けなくては。地元とのうまい関係の構築(に)留意して。
 鎌倉市の美術館は、準備室を立ち上げたが大変だ。地元作家の意見が強すぎて。そこからすでに始まっている。

柳沢 個人的(な話だが)、卒論で松本竣介(を取り上げた)。神奈川県立近代美術館には、(松本竣介の作品を見せてくださいと)学部を出てすぐに、初めて美術館の中にアプローチした。そのとき、見せてくれたのが、原田さんで、収蔵庫に通して1つ1つ見せてくれた。(僕がつたない解釈を言うと、原田さんは)あーそうだねーと聞いてくれた。原田さんは作品を愛しているのだなあというのが、(僕が)学芸員をしている中で財産になっている。
山梨 自分たちがどれだけコレクションに愛着を持つかにかかっている。

 以上、実際にはもっと様々な観点から対話がなされたが、あくまで個人的な観点から、書き残せた範囲で紹介させていただいた。
 山梨さんと原田さんの掛け合いが面白い。収蔵庫が一杯な老舗の鎌近(神奈川県立近代美術館)の収蔵庫機能を、早くも購入予算ゼロにされてしまった新築の横須賀美術館が引き受けようというお話(もちろん架空の)である。前日、拝見した横須賀美術館山本理顕さん設計の収蔵庫は、天井が高く、まるでルーブルやベルサイユの巨大絵画でも収蔵できそうなラックが設置してあったが、実際には、絵画が二段掛けにされていて、一緒に見学した他館の学芸員さんの質問に対して、横須賀美術館の若手学芸員さんは、“出すことのあまりない絵画を上に掛けています、動かすときは、脚立に乗らないといけない”と答えていた。私の聞き間違いでなければ、“作品をラックの上部に掛けるときは、業者に・・・”とか。
 建築家の理想と、自治体の現実とのギャップはすさまじいと言うべきか。
 写真は横須賀美術館谷内六郎館(2008年2月21日撮影)