「歴史学は回復するか イギリス衰退論争」

 今日は、新入生オリエンテーションで出勤。外へ出ると、やはり具合が悪くなる。でも、おとついよりはまし。私の風邪を他の先生方にもうつしてしまったらしい。休んだほうが、世のため人のためかも・・・夕方から熱で、だんだん熱が上がってきたので、もう寝よう。

 今、ぱらぱら読んでいるのが、『大航海』No.65(新書館、2008)。最初に読んだのが、川北稔「歴史学は回復するか イギリス衰退論争」(pp.42−52)で、面白かった。

 グローバリズムや広域化の流れのなかで、ナショナル・アイデンティティが弱まりつつある今、「国民経済」の衰退などということが、問題として成立するのかどうかということが、まず問題にならざるをえないのである。世界の景気変動やヨーロッパのそれと「イギリス経済」の変動とは、どちらが、より決定的なのか。また、北アイルランドの経済状況はシティのそれによって代表させることなどできるのか。「サッチャー改革によってイギリスは経済が好調である」などという俗説的な主張には、よほど警戒的でなければならない。(45頁)

 いろいろな思考実験が紹介されているところが楽しい。「イギリス衰退論争」は、「サッチャー改革」の背景となった論争らしい。イギリスでは、多くの近世・近代史家が大論争に参加したそうだが、この大論争にあたるものが、「平成大不況から小泉改革の期間をつうじて、わが国にはまるでなかった」というのが、川北さんの嘆き。「歴史学界には、現実社会の問題を回避し、『歴史のロマン』におぼれる不幸な状況がある」(52頁)とは、手厳しい。