「消え行く博物館計画」

 風邪薬が切れたとたん、朝、起きるとノドが痛い。ハナもぐすぐす・・・新手の風邪を引いた?という信じられない展開。犬は、青いフェイス・カバーをつけたまま散歩に出るので、普段は気にも留めてくれない女子中学生たちが、「かわいい!」と言ってくれる。ファッションじゃないんだけど・・・。
 さて、出勤すると、東海大から『東海大学課程資格教育センター論集』第6号(2007)[2008年3月31日発行]をいただいていた。開いてみると、おっと思う目次があったので、さっそく読んでみた(テープ起しの誤字脱字ありすぎが残念)。
 大野一郎・若月憲夫・日露野好章「2006年度学芸員課程主催公開講演録 博物館の世界―博物館経営の諸問題2―博物館と市民意識」(87−113頁)。大野さんと、日露野さんのは、私自身の研究・授業ネタと近い部分を扱っておられて、そうか、こういう参考文献、資料の作り方があるのか、と参考になったが、似ているがゆえに読んでいて、ちょっとこそばゆかった。大野さんは、神奈川県、特に湘南周辺の「地域博物館」(の建設経緯や市民意識調査等)について語っておられる。日露野さんは、教育委員会問題や、学芸員の名称独占問題、特に後者は、エコミュージアムの「市民学芸員」を引き合いに出して論じておられる(ちなみに、帰宅すると、JECOMSの『エコミュージアム研究』が届いていた。最近、こういうブラックな組み合わせに遭遇することが多い)。
 でもって、ダントツに面白いのは、若月さんの「消え行く博物館計画―その時代の流れと向かい合う」だ。小見出しは、「縮小する博物館関係市場」「プロジェクトは、こうして芽生え、そして消えていった」「何故、博物館計画は、消えていくのか」「今、学芸員資格の取得を目指す皆様へ」と続く。もちろん、価値観の違いはある(ハンズオンとか、『「対話と連携」の博物館』とか、専業主婦問題とか・・・)、が、それはさておき、とり上げられている問題は、私の現在の関心事と非常に近い。
 失われた10年の間の問題、「縮小し始めた市場の中で、効率のよい大型物件の獲得を目指して、展示会社の各社がコンペ・プロポーザルで激突する時代」、そして市町村合併に伴い、当てにしていた過疎債・合併特例債が使えなかった自治体の話。学芸員は最終目標になる専門職業なのか、という問いかけ。嘉田知事が具体例にあげられているところが面白い。
順番は前後するが、まず、中国進出の話。

中国に目を向けてみると、中国は今、高度成長期で、これから科学館を100館ほど作るという話があります。・・・ちょうど、一世代前の日本の状況です。私も今年は、中国の科学館を手がけていますが、はたして今後、中国の物件が増えていくことになるのでしょうか。(98頁)

 これは、本当にそう思う。中国には、これからバンバン博物館が出来る。私だって、ソウル、北京、と行ったら、次はドバイだぜ、と思う。ちなみに、アブダビには、安藤忠雄設計の海洋博物館ができるらしい(「UAEに『芸術の時代』」2008年4月2日、朝日新聞夕刊」)。

それから、指定管理者制度の問題。

今の時代は首長が変われば予算などは削られてしまいます。ところが、指定管理は契約です。契約の期間中は人とお金は守られるのです。(101頁)

 この講演は、2006年8月25日だから、仕方がない。まだ「滋賀の乱」も「大阪の変」も勃発していなかったのだ。しかし、今となっては、自治出資法人が恐れるべき相手は、展示業者を始めとする民間企業ではなく、「県議会議員」だったり、「府民の選好」だったりすることは明らかだ。(ちなみにしつこいが、指定管理の「指定」は行政処分であって、「契約」ではない。協定の法的性格が「契約」かどうかは、意見の分かれるところ)。

・・・結局のところは、公共の資金(その大元は税金)が、どのように使われるのかに大きく左右され、社会全体から見れば、博物館作りは、土木事業と同じ位置付けなのではないかと感じることです。上の方から流れてくるお金が無ければ、それでおしまい。残念ながら、それが日本の博物館の現状なのです。(98−99頁)

 さて、ご三方の講演録を拝読しての、本日の勝手なまとめ。
 乃村は中国に、安藤忠雄アブダビに、日本の博物館は「市民学芸員」と「手作り展示」。これにて、一件落着???