『現代アートビジネス』

 小山登美夫さんの『現代アートビジネス』(アスキー新書、2008)を読んだ。面白くて、一気に読んだ。特に前半が面白い。
 小山さんは、中学時代に美術に目覚め、東京の美術館や画廊に自転車で通ったという。これだけでもびっくり。藝大を出たあと、夜はバーテン、昼は画廊で丁稚奉公、やがてギャラリーの仕事に専念することを決め、銀座のクラブをやめたという。1989年、1ヶ月ほど、アメリカのギャラリーを見て歩いたときの経験が刺激的。

 ニューヨークでは、その名も『ギャラリー・ガイド』という案内本を片手に、載っているギャラリーを片っ端からつぶしていきました。高級住宅地のお屋敷のようなギャラリーで門前払いされたこともありますが、それ以外はほぼ制覇したと言ってもいいでしょう。(35頁)

独立して「小山登美夫ギャラリー」を始めてからは、グラマシー・アートフェアに参加。

僕はたった一人。作品は、キャンバスの裏の凹んだところに小さ目のキャンバスを入れ子状にはめ込んで梱包し、全部トランクに詰めて手持ちで行きました。ドローイング作品も、八〇点くらい持っていったと思います。英語は苦手だったので、初日に来た日本人の留学生に、「働かない?」と声をかけて通訳をしてもらいました。(37頁)

これが1996年のことで、奈良美智さんや、村上隆さんの作品が次々売れたという。
本書の後半は、アートマーケットの話が中心だが、欧米と日本の違いを考えさせられる。
例えば、アメリカでは、「富裕層は、いくらお金を持っているかよりも、その金額に見合う社会的地位をどこに築くかということが重視されるようです。・・・そのときにアートコレクションが、ある種の社交のツールになります。よいコレクションをしていることは文化的な教養を示すことにもなり、もっともわかりやすい社会へのプレゼンテーションだからです」(170−171頁)など。他にも、

ニューヨークへの観光客は2006年には4600万人を数えています。彼らが落とした外貨は年間280億ドル。日本円でおよそ3兆円、東京都の一般会計予算の約半分にものぼる額を観光だけで捻出しました。
 ニューヨークの最大の観光資源は言うまでもなく、世界でも最大級のコレクションを持つ美術館群です。(186頁)

 また、「アメリカ抽象表現主義絵画」運動を「資金的に支援したのは、主に成功を収めた実業家でしたが、世界的なキャンペーン活動を全面的に展開したのは政府でした」(187頁)という部分も、ちょっと、どこかの知事さんに読ませたいような話だ。

ところで、2005年の夏、初めてNYに行ったとき、“ARTWALKS IN NEW YORK”(2004,NEW YORK UNIVERSITY PRESS)という本を現地調達し、チェルシーのギャラリー街に行ってみた。夏休みだったためか、あいにく、本の記述に反し、ギャラリーは軒並みお休みだった。次に行く時は、『ギャラリー・ガイド』なる本を探していこう。私の場合は、単に、何か未知のものを見たいという好奇心のみのなせるわざだが。