「今こそ、専門分野の司書・学芸員の“専門”を問う〜図書館・博物館における専門スタッフの役割を考える集い〜」

takibata2008-05-29

 大阪府労働情報総合プラザ・大阪社会運動資料センター見学会に続き、昨日(2008年5月28日)18:30〜20:30に開催された「今こそ、専門分野の司書・学芸員の“専門”を問う〜図書館・博物館における専門スタッフの役割を考える集い〜」に参加した。http://shaunkyo.exblog.jp/8149308/ 会場は、エル大阪604号室、こじんまりした会場で、18:30時点で、26名ほどの参加、終盤には数えていないが40名程度の人が集まっていたのではないだろうか。今回の“集い”の呼びかけ人は、(財)大阪社会運動協会の谷合佳代子さんと、(財)大阪府男女共同参画推進財団の木下みゆきさん。前半の司会が木下さんで、後半の司会が谷合さん。マスコミの取材は朝日新聞毎日新聞
 最初に、木下さんから、今回の“集い”の趣旨説明があった。その中で、今回の集いの内容は、後日(大阪府労働情報総合プラザ・大阪社会運動資料センターの)ブログに掲載するとのことだったので、詳細はそちらを待つことにして、以下では、私の個人的なまとめと感想を書かせていただくことにする。

【6月4日追記:正規の議事要録が、大阪府労働情報総合プラザ・大阪社会運動資料センターのブログ(6月3日分)に掲載されましたので、そちらもご参照下さい。→http://shaunkyo.exblog.jp/d2008-06-03

 なお、集会の趣旨として木下さんは、「PT案によって存続の危機に面しているが、焦点が当たるのがハードとしての建物で、あるいはせいぜい、いかに珍しい資料があるか(が報道され)、人に光が当たることはないので、人に光を当てることが必要だ。人と情報、人と人をつなぐ、専門職スタッフを失うと損失なんだということを再認識し、対策、未来を考えるための連携を」といった内容を語られた。また後半のフリートークに関しては、「PT案への反論はきりがない。そもそも論ではなく、司書・学芸員の仕事に焦点を絞って語ってほしい。わかってもらえないのよね〜は禁句」と言われた。
 前半のリレートークの顔ぶれは、以下の方々。 
 ドーンセンターライブラリー 木下みゆきさん/ ヒューライツ大阪 朴君愛さん/ リバティおおさか 朝治武さん/ ピースおおさか 中村哲さん/ 部落解放・人権研究所図書資料室りぶら 本多和明さん/ 大阪府労働情報総合プラザ 谷合佳代子さん/ ワッハ上方 古川綾子さん・渡邉里紗さん(代読)/ 大阪府立国際児童文学館(代読)/ 専門図書館協議会広報委員長・越山素裕さん(代読)

 以下、特に(私にとって)印象に残ったお話をピックアップする。以下、敬称略。【メモによる復元なので、文責は瀧端にあります。正確な記録は、後ほど、企画者ブログにてお確かめ下さい。】

 朴:アジアNGOの藁半紙の資料等、足で稼いだ資料(を収集し)、カンボジア等、アジアの人権教育の教材も集めた。蓄積された体験によってレファレンスをしている。


 木下:ゲリラ的に始めた集いで、GW中の専門図書館協議会で谷合さんに会わなければ、(なされるがままになっていたかもしれない)。このままでは、中の職員がしてきたことに光が当たらない。何かしようよということで、(まずは)人権関連施設から(声をかけた)。


 朝治:今日の出席者の中でも、リバティに来られたことのある方は3割くらいだ。博物館の役割は見てもうてなんぼ。PT案では、事業費は自主財源でやれということで、仕方なく特別展を中止した。“近つ”や“弥生”も、収蔵品展をやっているが、本来これでいいのか。暫定予算は7月いっぱいまでで、8月からは特別展・企画展を復活させる予定だ。金がなくても、自前でできることをやる。収蔵品ででもやる。
 金があろうかなかろうが、世に対する訴えはやる。金がなければできないという発想を止めよう。学芸員がもっと、前に出ようと(言っている)。自前の職員が、世の中に発信する。(これまで、外部から講師の先生を呼ぶなど)予算を消化することでやってきたという反省もある。裏方でやっているのが学芸員・司書ではない。いやなことも引き受けな、しょうない。
 司書・学芸員の共通性は資料をたくさん持っていることだ。公開を本当にしているのか。目録を作らないと、見に来てくれない。


 本多:図書が35,000点、市販ルートにのらないいわゆる灰色文献が53,000点ある。お金に換算できないものほど、価値がある。今後、評価基準で、活動指標(貸し出し冊数)と、成果指標(880万府民にどのような効果があるのか)を求められるが、目に見える形で(出すというのは)難しい。
 府立図書館でも、(年間)10万冊しか利用されていない。図書館は、いかに庶民にとって敷居の高いものか。将来展望について、行政支援型、スポンサー支援型、ボランティア支援型があり、ボランティア支援型が一番いい。東淀川のアジア図書館は、100年構想をたて、26年かけて30万冊集め、一切行政から支援を受けていない。


 木下:国立国会図書館納本制度60周年(を迎えるが)、地方行政資料で(集まっているのは)全出版の4割とのことだ。灰色文献の中に、(地方行政文献も入っている)。ストックを次の世代につなぐことが、公共図書館の役割だ。


 谷合:府は、7月末で廃止の方針を出している。専門職がいるといないで、何が違うのか。近江絹糸の職場機関紙は、1956年頃のものだが、争議のあと、言葉にしようと、“らくがき運動”を綴った同人誌だ。うちが持っていなかったら、公開しなかったら、未来永劫残らない。捨てるかどうかは、今、私たちが判断すべきではない。
 知事の任期はたった4年しかない。(資料を捨ててしまえば)空白の4年間になる。100年後、1000年後の人が見たら、この4年間は、は、恥ずかしいんちゃうかな。
 専門図書館の専門性たるゆえんは、ニッチな部分にある。
 国際児童文学館には、おとつい初めて行った。国際児童文学館のスタッフは、新刊書をすべて読んで、書評まで書いている。(書評の公開はしていないが、)全点集めて、内部資料とし、そこから選書をしている。そんな真似はとてもできないし、(府立図書館への統合を)許すようではあかん。
 ワッハ上方には、昨日、行った。(館長さんは)毎日、生活文化部に行っているそうだ。上へ行くほど、声が届かない。
 府立図書館(のスタッフは)優秀だが、それぞれの専門性があり、それぞれがあって、お互いの機能が発揮できる。一緒にするのは乱暴だ。


 越山(パワポを投影して、谷会さんが代読):早稲田大学図書館の仁上先生は、専門図書館員に求められるものとして、次の項目をあげていた。1)書誌知識、2)主題知識、3)語学力、4)指導力、5)企画力、6)組織力、7)政治力。(従来は、1から3が司書の専門性としてあげられていたが、4から7がこれからは、大事になるのではないか)。
 民族紛争では、まずは図書館が攻撃されるという。民族の記録の抹殺を(図るからだ)。資料は、活用してこそ、価値がある。

 以上が、前半リレートーク部分の抜粋だ。正直なところ、存在すら知らなかった館もあり、お話を聞いても、リアリティが沸かない部分もあった。逆に、朝治館長のお話は、幾分か中を知るだけに、妙にリアリティがあった。
 続いて、後半、最初に、府立図書館の方から発言があった。

フロア:(府立施設は、)数ヶ月で存廃を決めるものではない。府立図書館は、知のセーフティネット(とうことで、当初から廃止の対象から免れたが)、府立図書館だけでやれるわけではない。レファレンス等、お互いが補完しあう存在になっているはずだ。児童文学館と1つになって、いいことはない。現実性もない。実際にできるのか。物理的に不可能だ。府立図書館は、収蔵可能冊数が、公称350万冊となっているが、(実際には)300万冊も入らない。地下書庫を改造して、(集密書架を増設して)はじめて出来る。(現在の蔵書だけでも)そろそろ書庫が厳しいと、館側からも現状を言っているはず。資料の保存の仕方もぜんぜん違う。性質が違う。府民の協力を得られる方向を。

 後半フリートークの中で、谷合さんから、発言するよう促され、つい、余計なことを言ってしまった。今回は聞き役のつもりで来たので、困ったなと思ったが、だいたい次のようなことを喋ったと思う。「司書・学芸員の専門性を問う、ということだが、今回、府立4館の方が来られていないのは、どうしてだろうか? また現在、橋下知事は、支持率が高いと報道されているが、知事を支持する人たちに届くような語り方をする必要があると思う。知事の支持率は7割とか8割とか報道されているが、新聞の報道の仕方にも問題はあると思う。支持者も、知事のすべての政策を支持するわけではないだろうし、知事へのメールも、出す人は一部の人で、出さない人で反対の人もいるだろう。今後、どうするのかの、対策を考えていかないと、私たちは潰されてしまうと思う」。
 的外れの発言だったかもしれないし、もっと建設的なことが言えればよかったのだろうが、率直な気持ちをつい話してしまった。「新聞」と言ったのは、二社の記者さんが来られているのを意識してわざと言った。文化面担当者は比較的、文化芸術に理解のある記事を掲載してくれていると思うが、文化面以外でのとり上げ方などは、世論に従う風の記事が目につく(朝日さんへ)。「私たち」と言う言葉は、とっさに言って、自分でも、幾分違和感が残った。

谷合:考古学系の博物館については、1館ずつ当たっている時間がなかった。(考古4館には)大きな学会がバックについて(活動も早かったが、今回は)人知れず潰されようとしているところから。17日のシンポにも出席したが、面白いシンポだった。博物館のすべてを議論の対象にしたい。明日も、自治労連が大阪の文化を考えるつどいをエル・おおさかで、センチュリー楽団員らがアピールする会を開くが出席したい。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080525-00000268-mailo-l27


朝治:我々の専門性で何ができるのか、が、今日のテーマだったのではないか。


谷合:何ができるか、(だが、先ほどの越山さんのスライドでも)専門性に、「政治力」というのがあった。アジア図書館は、行政の支援を受けずに頑張っている。


木下:ドーンセンターでは、府が、男女共同参画施策に取り組まないという決断をするなら別だが、予算化をしなければ、仕事はしません、という(スタンスだ)。行政として、責任を持ってやってくださいと。


朴:(知事は)、行政に頼らず、自分たちで頑張ってください、と言う。専門(性を持つ)NGOに対しては、労働の対価が必要だ。資料は、人手がかかって、お金を生まない分野だ。


谷合:児童文学館(の司書さんたちは)、児童書(について、他館の司書に)レクチャーする立場だ。これを使えないか。私たちが、府内の公共図書館の人たちにレクチャーする。事業(お金)につなぐ方法があるのではないか。朝治先生の先ほどのお話にも、学芸が前に出る、講師になれる、というお話があった。


朝治:危機は、補助金があるかないかではなく、入館者が7万→6万→5万と減ってきているところに、博物館としての危機がある。職員全員が、市町村に営業に回っている。危機のときは、動かないかん。入館者の目標は7万にしている。どう抵抗するか、そこに集中することの怖さがある。職員として、専門性として、何ができるか。(来館者に)学校の集団が増えているが、(我々のところに配置される)府からの教員の方たちを見ていると、実に丁寧に来館者に対応されている。


フロア:府立高校の教員だが、教職員組合でビラを配り、保護者にも話しをしている。PT案は、どうせ通るから、では困る。まるごと通されては困る。


谷合:PT案は、通さない。

最後は、参加者それぞれの、置かれている状況、切迫度の違いが浮き彫りになるような形になったと言えようか。また、谷合さんと木下さんから、今回の集いの参加者一同の名で、知事宛、「大阪府の博物館・図書館の存続を求める要望書」を提出しないかという呼びかけがあった。お二人の行動力に圧倒されたが、「大阪府財政再建プログラム試案(PT試案)により廃止・統合・移転縮小の対象となっている大阪府内のすべての博物館・図書館について、その方針の撤回を求めます」という要望書(案)が用意されており、会場からの拍手で採択された。
 私はと言えば、その案の文面を読んでいるうちに、他の方々の拍手を聞いてしまったという状況。最後の展開は、ちょっと強引だと思った。いつまでも、ぐずぐずと、府内の各施設のことを調べない自分も問題なのだが、現実問題として体は一つしかない。この目で見たり、自分で確かめたこと以外について、賛否を述べるのは辛い。

 ところで、帰路、他県の学芸員さんとご一緒した。以前から気になっていたのだが、お別れしてからふと、思い当たることがあった。大阪府下の博物館には、他県の、いわゆる「県博協」にあたるような横の繋がりがないのである(たぶん)。
 大阪市の博物館関係者が、大博研を組織し、頑張っているのは、以前に書いたとおりである。http://d.hatena.ne.jp/takibata/20080418 http://d.hatena.ne.jp/takibata/20080518 しかし、大阪市の博物館と、府立館は、あまり交流がないのではないか。府下の各自治体立の館と、市立館も、専門分野が近い館どうしは交流があっても、大阪府博物館協会的な、横の繋がりは、あるのかないのか(知らない)。神奈川県とか、徳島県のような、県単位で本を出してしまうような活発さは、大阪府にはない。そうか、そういうことだったのか、と今頃、腑に落ちたのである。

 また、昨日の会合に出る前に、岡本真さんの以下のような記事を読んでいた。

さて、先日毎日新聞がこの問題を報道していた。

社会・労働関係の専門図書館大阪府労働情報総合プラザ」の利用者数が00年から増え続け、4倍になった。府の直営から財団法人大阪社会運動協会(社運協)の委託運営になって、スタッフの専門性が生かされた。本や資料は、内容を知る人がいて初めて活用できるということを実証したが、大阪府財政再建プログラム試案(PT案)では「今年度に廃止」とされている。【佐々木泰造】

プラザは大阪市中央区の府立労働センター(エル・おおさか)にある。来館者数は府の直営だった99年度に3515人だったが、06年度は1万4051人になった。

・「大阪府労働情報総合プラザ:利用者4倍…民間委託の成果、無に? 府PT案では廃止」(毎日新聞、2008-05-16)http://mainichi.jp/kansai/news/20080516ddf014040019000c.html

冷静な記事と思う。

当日の催しは、司書や学芸員の専門性を中心にしたテーマ設定となっているが、感情論に陥ることなく議論が進むとうれしい。すでに書いたように、また毎日新聞の報道にもある通り、少なくとも大阪府労働情報総合プラザについては、経済的な合理性や妥当性という観点でまず根拠を明確にし、その上で政治と行政における正義や公正という価値観を論じることが望ましいと思う。

自分自身では調べられていないのだが、たとえば大阪社会運動協会に委託されるまで、大阪府労働情報総合プラザの運営に投じられてきた大阪府の予算と民間委託後の予算を数値で比較することが必要だろう。大阪府の行政資料を駆使して、価値観に関係なく説得力のある資料をまとめ、それに基づいて議論を進めることが必要だ。大阪府を論理的に論破するに足るだけの資料をまとめあげることは、司書の専門性の実在を示すこれ以上ない機会ともいえるだろう。逆にそれができなければ、司書の専門性はやはり空理空論とみられてしまう。司書が専門職の矜持を見せることができるのか、非常に注目している。
http://archive.mag2.com/0000005669/20080526001946000.html ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)2008-05-26発行  No.324

 
 この記事を読んでいながら、感情論に走ってしまったのは、私ではないか? 同じ場に居合わせた、pontaさんの感想はこちら→http://hist-muse.blog.so-net.ne.jp/2008-05-28

 写真は、大阪社会運動資料センターの新聞記事の抜粋集(たまたま手に取ったものは、昭和6年の大阪朝日新聞からの抜粋だった。2008年5月28日撮影)。