新しい公益法人制度について(6)

 高山先生のお話の続きを。

 会計基準の遊休財産については、テクニック的に難しいところがあるが、財産を持ちすぎたらいけないかというと、そんなことはない。ただ、諸刃の刃はある。すなわち、遊休財産は、認定が取り消されたときに、降りなさいと言われたときにパラシュートになる。遊休財産は、公益目的事業費の1年分以上を越えてはいけない。遊休財産は、自分がやろうと思う公益目的事業の1年分以上は持てない。遊ばせている、何に使うか分からないけど、預金ですよね、こういう財産は、1年に限り持つことが出来ます。それ以外は全部、公益のために持たないといけない。公益のために使わないといけない。


 だから、公益のために持つと自分で言えば、それはできるが、その裏返しとして、認定が取り消されたときに、これは置いていくやつだから、国に召し上げられる。パラシュートになるのは、遊休財産としての、最大、事業費の1年分。これだけは、でも負債も持っていくから辛いが、負債も持って、遊休財産を持ってということになる。だから遊休財産で引っかかるということは想定しないでガイドラインは作っているので、大変。内部留保30%とは全く違う考え方で作っているので、作りながら、まあ大丈夫だと思いながら作っているのが、遊休財産の話だ。


 遊休財産の話は、ガイドラインの13〜15頁あたりで、今回の会計基準が税務的・法律的に色濃いものになっているが、自分の持っている財産をちゃんと書く。公益目的の財産を明記させて、いざとなったら置いていってという話だから、何にも書かないのがたぶん遊休財産だと思うが、それは持って行っていい。そのように、外部に公表させていきますし、内閣府認定等委員会の報告事項にもなっている。


 私が、2階に行く法人が「イバラの道」だと言った一つは、こういう厳しい話になってくると、金融機関がお金を貸してくれないかもしれない。金融機関の借入金は、取り消されたら、下に行く、一緒に持っていかないといけない、国は持って行ってくれないですよ。だから借入金があって、十分な財産があります、だから銀行は安心して貸してくれました、でもこの十分な財産が公益目的財産だと、取り消されたらどうなるかというと、公益目的財産が国、残ったものと借入金が下、これ、どうなるのでしょう? 担保つけて下さいとかいう話になってくると思うが、担保つけない中で本当に貸してくれるのか、疑問になるような制度だ。何度も申し上げるが、今回の会計基準、得たものは大きいが、今までお話したような意味では「イバラ」だ。


 公益事業をやっても赤字にしていかなければいけない、そして黒字の部分であっても、税金を払わないようにしていくためには、なみなみならぬ努力と、会計に対する細かい処理が必要で、これは小さな法人には過重な負担がかかると思う。


 だから今回、2階に行くための「経理的基礎」という基準がある。ガイドラインの2頁目、できれば公認会計士、税理士が入って指導して下さい、あるいはダメならば、監事の中に、経理的な素養を持った人、その人が責任を持ってチェックして下さい、ということを要求している。またそうでなくても、5年以上の経験がある、経理が分かる方を監事にして下さい。今回の改正の一つが、ガバナンスの改正だ。組織が変わる。理事会も今までもあったと思うが法律に基づいたものではなかったのを、法律上、理事会というところで制定した。あるいは、評議員会が財団法人にとって諮問機関だったのが、意志決定機関に変えた。そういうことでガバナンスを要求した中での監事、今までの、「カン」という字が「閑」という字ではなくて、きちんと監査をする監事に代わって下さい。だから、無償の報酬の監事が税理士、会計士に来たものは認めないと判断される。それなりにお金がかかるでしょうということで、適切な費用を払ってください、と。そうすると、小さな法人にとって結構大変ですね。


 そこで(3)のマル2、会計士も責任を負わせると、お金がたくさんほしいけど、責任がなければ、責任がないと言えば言い過ぎだが、けっこうボランティアで頑張ってしまう、税理士さんも。それをマル2で言っている。即ち「上記マル1はこれを法人に義務付けるものではなく、このような体制にない法人においては、公認会計士、税理士又はその他の経理事務の精通者が法人の情報開示にどのように関与するのかの説明をもとに、個別に判断する。」ということで、確かに整合性をちゃんと取れているか説明してもらう。だから監事になったら、お金払わないといけないが、高い質のボランティアの中である程度やってください、というのが行間ににじみ出ている文章だが、最後は内訳表で全部判断しますから、しっかりやって下さいというところで、お金がかかるなら、厚意に甘えて、よく精通した方にお願いして、2階に来てくださいというお話をしている。従って、2階に行くということは、ある意味お金のかかることで、では1階で今まで通りでいいのかなというのが一つある。


 2階と1階、どう違うか、税制以外に大きなのは、名声の部分、ステータスの部分がある。「公益」という名前がつくと、ステータスが高いと思われると思う。これは確かに大きい。


 公益等認定委員会で作った冊子『民による公益の増進を目指して』(平成20年5月 公益認定等委員会事務局)は、かなりよく書かれているので、これをもう一度見ていただきたい。公益認定等委員会が、独断と偏見である意見を言っているが、それが18頁目、「一般論として説明すれば」ということで、2階に行けばいいか、1階に行けばいいか迷ったときに、こういう風に考えたらいかがですかというのが、この「一般論として説明すれば」のマル1とマル2だ。読み上げると、
(1)いわゆる2階に行く法人(公益社団・財団法人に移行する法人)について
「法人法の要件に加えて認定法の基準を満たす必要があり、財産についても、公益目的事業財産とそれ以外の財産を区分する必要や、収益事業の収益の一定割合を公益目的事業財産とする必要があるなど、認定法にのっとった運営が必要となります。税制上の優遇措置を受けつつ、特に寄附を主要な財源として公益目的事業を行う法人または、収益事業で得られた収益を財源の一部として公益目的事業を実施したい法人が選択することが想定されます。」


 即ち、税金のメリットを存分に受けたいところ、だから今、収益事業課税されていて赤字の法人は1階行っても赤字。だからそのまま1階でいいのではないか。でも今、大変な黒字がある、でも公益目的事業もやっているような場合は、収益事業が公益目的事業と認定されれば非課税ですから、どんどん上に来てください。


 あるいは、寄附を受けるために優遇措置が結構あるから、特定公益増進法人と同じような証明書を出せるのだから、そういうものがほしいところは、やはり2階に行かざるを得ないだろう。寄附をたくさん受ける法人とか、あるいは収益事業をやっていて税金を払っている法人は、2階にトライすればかなりメリットが期待される。


 では、1階に行く法人はどういうところか。今日、時間がないのであまり1階に行く法人はないと考えてあまり説明していないが、あとで私の論文(注1)を読んでいただきたい、最後のほうに書いてあるが、今までやっていた事業は、たぶん1階の場合は、公益目的事業というふうにフリーパスで認められるから、それを粛々と支出して下さい。収入はカウントしないので、粛々と支出して下さい。そうすると、何年間で支出すればいいか? 財産は今、どのくらいありますか? 10億あります。今、やっている事業は1,000万円くらいなら、10億を1,000万で割ればいい。100年間、100年かかります、これもOKです。300年もいいんじゃないのという話も出ていたが、当初は3桁は困るけど2桁でという話で認定等委員会の中で言っていたが、99年くらいで支出していただければいいと思っていたが、3桁もありだという話もちょっと聞いている。どちらにしても、普通にやっていけば、税金も優遇されてくるし、あまり変わらないで行けますよというのは1階で、楽は楽だ。そういう事業、寄附もあまり受けません、今までとあまり変えたくないというのが、1階ではないか。


 ここマル2【(2)一般社団・財団法人に移行する法人】に書いてある「公益目的支出計画《即ち少しずつ支出していく実施》中は毎事業年度の公益目的支出計画の実施報告が必要ですが、比較的自由な立場で公益的な事業はもとより様々な事業を実施したい法人が選択することが想定されます。税制のうち法人税については、非営利性が徹底された法人等であれば収益事業のみの課税となります《今まで通りです》。なお、受取利子等に係る源泉所得税については課税《10%取られるが》となりますので注意してください。」


 よっぽど財団で大きくぐるぐる回しているところは2階に行くべきでしょうが、そうでないような年間の受け取り利息が数十万円程度の法人であれば、それは2割取られたって、2万円取られるくらいだ。あるいは4万円取られるくらいだ。そういう法人は1階です。


 1階に行ったときに、今までとどう違うのか? それはステータスの部分だ。これは持論だが、ご自分たちの中で、自分たちでステータスをあげる努力をしていただきたい。個人的には文科省に頑張っていただいて、博物館法上の登録博物館などが取れれば、1階で取れるか分からないが、そういうような行き方もあるし、これから充分、生き方を考えていただいて、絶対2階しかないんだというようなことは考えずに、ミッションの中で、自分たちのことをよく考えて、1階であったとしても自分たちのミッションが果たせると考えられるなら、それはそれでもいいのではないか。手足縛られて、何かあったときにいつも取り消されるんじゃないかという脅迫観念を持つくらいなら、精神衛生上いいのは1階だが、1階に行き、粛々と支出計画を消化していくということも、私はありだと思う。ご自分たちの中で、何か、これと違うような認定をするとか、そういう努力をするほうがいいのではないかと思う。(高山先生のご講演は、ここで一旦終わり。引き続き、質疑応答がある)

注1にあげた論文は、以下の通り。
高山昌茂「複雑化した新・新会計基準成案の経緯―新制度移行に伴う会計上の論点―」『非営利法人』No.758、2008年4月、4−12頁。


高山先生の今回のご講演のポイントは、配布して下さったレジュメの「新々公益法人会計基準について」の最後の部分、「失ったものと得たもの」、「ガイドラインの見方 1.収支相償、2.公益目的事業比率、3.遊休財産」だろう。また、ご講演の冒頭の部分は、きちんとメモが取れていないが、「イバラの2階、バラ色の1階」というキャッチフレーズが大変印象的だった。
この日、高山先生はもっと専門的なお話をされるつもりで、レジュメを用意して下さったが、聞き手の顔ぶれを見て、このようなお話に内容を変更されたとのこと。これでも十分に難解だったが・・・。運用指針の表は、簿記・会計を知らないとまるで分からないが、上記のポイントについては、復習をすると大きな考え方の枠組みはある程度理解できたかと思う。ふう・・・