ストックホルム近代美術館(Moderna museet)その2(8月26日)

 さて、続きを。へんなものと書いたが、もちろん、よい意味で面白いものという意味だ。
 まず、一つ下の階の、Floor2にあった“The Pontus Hultens Sudy Gallery”.当日は、ポントゥス・フルテンというカタカナ名と結びつかなかったので、変わった教育普及ルームだな、とガラス越しに眺めていただけだったのだ。何が変わっているのかというと、部屋がガラス張りなので、外から中の様子は丸見えなのだが、左手の棚の中から(雨戸の戸袋から雨戸を繰り出すように)、天井のレールを使って、絵が何点か飾られたパネルが色々と出てくる、というふうに見えた。このとき、私はてっきり、そのパネルの中にあるのは、絵の写真だと思い込んでいた。
 確かに、こういうのを使えば、プロジェクターやスライドで投影するより、美術史の授業はやりやすいかもしれないけど、展示室で見るほうがやっぱりいいよね、みたいな諸々の連想をして、変なの!と通り過ぎたのだった。
 ところが、Pontus Hultensに気づいて、パンフを読むに、こんなことが書いてあったのである。以下、試訳。「ポントゥス・フルテン学習ギャラリーは、公衆に開かれた、美術のための2層の保管システムです。ポントゥス・フルテン・コレクションの一部が、他の寄贈作品とともに、ここに展示されます。ギャラリーの上部に収蔵された美術作品が、特注の機械装置で、見学者のもとに運ばれてきます。その空間は、予約によって、研究者にも開かれていますし、研究施設のレファレンス・ライブラリーとして重要な役割を果たします。学習ギャラリーは、国際的に有名な建築家Renzo Pianoの指導の下に設計されましたが、Renzo Pianoとは、ポントゥス・フルテン(1924−2006)が、1970年代に、パリのポンピドゥー・センターの開館の関係で出会ったのです。」
 左の戸袋からというのは、私の記憶違いで、天井から降りてきたのだろう。さらに、問題は、あのパネルに乗っかっていたのは、絵の写真ではなく、作品そのものだったのだ。
 どなただったか、今、思い出せないが、「コレクションという(一般利用者が)最も近づきにくい分野にアクセスする」という言い方をされた方がおられた。つまり、フルテンの「開かれた美術館」は、まさに、このコレクションの部分への、公衆のアクセスを実現したのである。これこそが、「開かれた美術館」の極意であろう。
 ノコノコとストックホルムまで出掛けて行って、すぐにそれとは理解できなかった私は大ばか者だ。ま、気づいただけましだが。
 
 さて、2つ目の変なもの。さらに下の階のFloor1には、Studioがあった。これはPCを使った映像作品ライブラリーだろうと思って、喜んで手当たり次第再生した。まず、面白かったのが、黒人男性ばかり10人くらいが丸いテーブルで食事をしている光景をぐるぐる回しながら撮っている映像。そこに語り。英語の字幕を追っていると、内容は、こんな話なのだ。俺が初めて、スウェーデンに来たとき、文無しで困っていたけど、スウェーデン人のレディと知り合いになった。そのレディの家で一緒に暮らすことになった。ところが、何ヶ月かして、そのレディとケンカになって、彼女に手を上げたら、彼女は警察を呼んでしまった。俺は、警察に捕まった。拘置所に入れられている間に、彼女は、俺の友達と出来てしまった・・・てな話が、まだまだ続くので、途中でギブアップ。でも、黒人男性がみな、赤白の縞々のシャツを着て、おしゃべりしている光景が、なんだか、面白おかしいのだ。
 で、そのあと、さらに変な、Annika Eriksonという人の作品(2000)が出てきた。これは、ストックホルム近代美術館の一室と思しき場所に、椅子や机が置いてあり、一人ずつ人物が現れては、自己紹介をしていくというもの。ウソか本当かは知らないが、途中から、ふと、思うところあって、メモを取り出した。それから、もう一回、性別に分けて、最初からメモを取り直し、下の表のようにまとめてみた。スウェーデン語で自己紹介しているのを、英語の字幕でメモしたもので、途中までしか書き取りきれなかった人もあるが、通し番号を打ったので、人数は間違えていないはずである。なお、実際の映像では、出てくる順番は、ランダムで、職種に序列はない。また職名も自己申告なので、職種で言う人、所属部署を言う人等、人によって、言い方が違う。

ディレクター・オブ・ザ・ミュージアム 男1
キュレーター 女1
キュレトリアル・アシスタント 女1
キュレーターのインターン 女1
コンサバター 女3
ペーパー・コンサバター 女1
フォトグラファー 男1 女1
フォト・テクニシャン 女1
フォト・ビューロー 男1
チーフ・オブ・アドミニストレイティブ・デスク 女1
ファイナンス・デパートメント 女2
マーケティング 女1
PR&スポンサーシップ 女1
プレス・オフィサー 女1
クレタリー 女1
パーソナル&ウェイジ(人事・給与担当?) 女1
ヘッド・オブ・エデュケーション・デパートメント 男1
エデュケーション・デパートメント 女1
ミュージアムティーチャー 女8
コミュニケーション・イン・スクール〜 男1
コラボレイティブ・スクール・プロジェクト 女1
スウェディッシュ・モダナイズ・プロジェクト・アシスタント 女1
コンピューター 男1
エグジビション・デパートメント 女1
エグジビション・テクニシャン 男4
エグジビション・レジストラー 女1
アドミッション・デスク 女2
インフォ・マスター 女1
ミュージアム・ガイド 性別書き忘れ1
チャージ・オブ・エグジビション 男1
チャージ・オブ・オペレーション 男1
ツアー・オブ・エグジビション&レジストラー&アドミニストレイションのアシスタント 女1
カーペンター 男2
ブックショップ 男1
インターン 女2
計 男16名 女37名 書き忘れ1名 計54名 (うち、インターン3名)

 う〜ん、これは、学芸員資格高度化論ではなくて、専門職員役割分化論だな・・・。それにしても、かのスウェーデンにして、この職種別男女の分業は笑える。もっともこれはあくまでアート作品という設定。専任か、パートかって? スウェーデンは、「同一労働同一賃金」の国だから、雇用形態の差は関係ありません、たぶん。
 
【学会発表が近いため、しばらく更新を休止します。次回更新は、9月21日頃の予定です】