全国博物館会議(11)

 高山先生のご講演(ダイジェスト)の続きを。

 よく問題になる遊休財産額という考え方を説明する。遊休財産額というのは、お金を貯めすぎてはいけないということ。これもまた厳しい話で、遊休財産額が厳しくなる理由がある。もし2階へ行った法人が認定を取り消された場合、今持っている財産は没収されるが、遊休財産額は持って1Fに行くことができる。あるいはパラシュートになる。従って、この遊休財産額は多ければ多いほど、法人にとっては安心だが、それはそれで公益目的事業をやってもらうためには遊んでいると言われるようなものなのでそれは困るでしょう。


 そこで決めたのは、遊休財産額というのは、公益目的事業の1年分を超えることができないという切り方にした。公益目的事業が50%以上であれば、それを1年間分は持つことができるということで、本当に緊急避難的なものだ。今回、2Fを取り消されて1Fに行くときに、先ほど身ぐるみ剥いでと言ったが、遊休財産額は持っていくことができる。


 もう一つ実はある。それは一番初めの不可欠特定資産だ。一番初めに持っている不可欠特定資産のみ、この遊休財産額と一緒に、1Fに降りることができる。従って、1年目の申請時に、不可欠特定資産をしっかりと定義していかないといけない。不可欠特定資産というのは、その財団法人にとって、絶対的に不可欠なもの。固定資産です。現金はダメです。じゃあ、固定資産で不可欠特定資産というのをイメージしてみると、博物館があります、美術館があります、建物、土地はなりません、これは不可欠特定資産にならない。展示品のみだ。展示品は、不可欠特定資産として、もし認定を取り消された場合に、1Fに降りることができるので、今の会計基準の中で、まずやらなければいけない見直しとして、今持っている博物館としての展示品がバランスシートに載っているかどうかの確認作業はぜひしなければならない。


 寄附で貰って、ゼロというのがある。ゼロではダメ。この決算で1円はつけて下さい。まず、バランスシートに載せて、そしてこれが不可欠特定資産と言わなければならない。まとめて1円なんてことを言わずに、1個1個、持って行くものだから、パラシュートつけるのだから、一つ一つの美術品に、一つ一つ1円ずつつけていかないと、全体で1円では認められるかどうかという問題があるので、まず棚卸しをして下さい。金額設定してあれば問題ないのだが、金額がついていない恐れのあるものはまず金額をつけて下さい。そしてつけて、そして最初に不可欠特定資産として定義しないといけない。定義していただいて、そうすれば安全パイ。いざ取り消しになっても、土地建物はなくなるかもしれないけど、どこかに寄付するかもしれないが、美術品だけは、展示品だけは、持って1階に行くという形になる。そして遊休財産額の金額だけは持って1Fに行けるという形になるので、ぜひ、ここの遊休財産額は小さめではなくて、ある程度余力を持って、1年分というと動いたときに困るので、8割か9割くらい持って行って、そして展示品は、不可欠特定資産として定義をしていただく、これがまず重要だということを大前提に。


 では、遊休財産額について見ていくと、計算式を見ていくのが早い。FAQの18頁【遊休財産額】を見てもらうほうが理解が早い。遊休財産額は、公益目的事業の1年分を超えることができない。だから遊休財産額は結構大きくは持ちたいがリミットがある。そして、その制限に触れてしまうと先ほど言ったように認定取り消しになる恐れがあるので、ギリギリ100%を持つのは危険だと思うので、ある程度少なめに出す。


 この計算を見ると、「遊休財産額は、その法人の純資産額(資産の額−負債の額)から控除対象財産を差し引いた残額です」ということで、控除対象財産とは、公益目的のために持つ財産だとかになってくるのだが、この財産は絶対的に必要だということだ。その代わり、この中にある、当初決定した不可欠特定資産以外は、取り消されたときに没収の対象になる。だから、控除対象財産が多ければ多いほど、没収される恐れがあるし、少なければ少ないほど遊休財産額が増えるという相関関係にある。


 全体的に資産が500あって、負債が100ある場合、そしてどうしても必要な財産として定義したものが300あるとしたら、遊休財産額は100というふうになってしまう。これは困るということで、遊休財産額について、対応計算をしなければならない。控除対象財産の中に、借入金の部分も実際あるんじゃないかというところを引き算していて、二重の計算はできないということで、控除対象財産と負債の部分の対応がある場合には、このままの式でいくと二重計算になってしまう。今の内部留保の問題が出ているのは、これは実は二重計算になってしまって、30%基準は本当にどうなのという反省から生まれたのだが、500という財産から負債の100を引いて、400。400から300、ダイレクトに引くのではなくて、300の中に負債の部分が実は100あったんだ、この借入金は、美術館の建設のためで、美術館というのは非常に必要な財産だと考えて、そんなイメージなんですね。そうすると、美術館を引いて、さらに負債を2回引くのはよくないということで、美術館のうち、対応負債の借入金が100あれば、それは一旦引いた上で、計算しましょうということで、この200が出てくる。


 だから、二重計算を許さない中で遊休財産って、どうなっているのかを実はきちんと確認作業をしていかなければいけないが、同じFAQの14頁【財産目録(例示)】、財産を流動資産と固定資産を含めて、この中でこれが必要な財産だ、ということをやっていく。


 よく質問があるが、預金を持っていると、あるいは財団ですから、財産持っている、有価証券持っています、社債を持っています、場合によっては投資信託を持っています、という場合、これって遊休財産ですか、と聞かれることがある。必ずしもそうではない。その財産、すなわち社債だとか有価証券を公益目的のために使っていると、そこから出た果実は、共通費の中に、公益目的事業の中に入ってしまっている財産もあるわけだから、そういう財産は管理をするため、あるいは収益を上げるため、あるいは公益目的をするため、こういうところに入ってくるから、それはこの遊休財産から外れる。でも外れるということは、いざというときにパラシュートになる。だから絶妙なバランスを考えてどれを遊休財産にして、どれを公益目的財産にするかということを考えていかなければならない。


 そして、一度決めたら、外れない。これを忘れてはいけない。一度決めて定義したら外れない。外れると、認定取り消しの対象になる。だから最初が肝心。一番はじめに報告するときに、この貸借対照表のバランスシートで、資産がどこにあたるかを明記したら、これは財産目録で明記するのだが、明記したらもう一生外れないから、どれを遊休財産、どれを公益目的、これが、一番最初にやらなければならない。専門家を含めてやる時には、最初に不可欠特定資産をどうやって選んでいくか、そして遊休財産とすべき金額をどれにし、それ以外をどういうふうに判定するかというところを決めていくことだ。所謂リスク管理を考えた中で、どれに当てはまるかを、考えて決めなければならない。


 いや、自分たちはいいんですよ、絶対に2Fに行ったまま大丈夫です、1階になんか行くはずがない。それだったら、全部、公益目的財産でバーッと行っちゃえばいい。ただ、取り消しの恐れがありますよ、と考えた場合には、生き残りのためにこういうものをしていかなければならない。そういうことなので、考えようによったら簡単なんです、全部公益目的にバーッと貼っていけばいい、でも考えようによってはテクニックがいる。私のほうからは、このあたりが一つのサジェスチョンであるかと思う。(以下、続く)

 分からなかったところは、美術品1個1個に1円ずつでもいいから金額をつけるという部分。簿記・会計・税務の知識がないので?? 内部留保も分かりません。
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 それにしても、美術品ならともかく、標本とか、古文書とか、土器の破片とか、そういったものにも、1個ずつ、値段をつけるの? 両生類標本一式、とかになる? これはとっさに、自治出資法人が指定管理者になっている場合をイメージしたのだけど、博物館資料は、自治体本体の財産という扱いになっていて問題ないのだろう。でも、指定管理者が買ったもの(資料)と、自治体が買ったものを、これからはきちんと区別していかなくては、みたいな議論を昔、三瓶山かどこかの学芸員さんが書かれた文章で読んだような記憶が・・・。面倒くさいので、ええーい、指定管理に出した公立館は、直営に戻しちゃえ、みたいな話になるのかどうか。
 一番大変なのは、数は少ないが自治出資法人が設置者になっているために、指定管理を免れた館かもしれないが、このあたり、よく分からない。

 ところで、高山先生の前回と今回のお話は、主に私立館を対象にしたお話だと思う。今日アップした部分などは、財テクか?と思えなくもない。そこから連想は広がっていくのだけど、俄然、興味津々となった。つまり、この手の話題は国家的に見ると(!)、「いかに税収をアップするか」vs.「節税術」のせめぎあいに読める(これはこれで実に興味深い)。私立館の設立事情は、千差万別だろうし、「博物館学」のテキストの中には、「相続税対策」なんて(はっきり?)書いている本もあったはず。
 でも、実は、日本の私立博物館の研究って、概説以外には、ほとんど進んでいないのではないだろうか? あるとすれば、個々の館が自館の歴史やミッションをまとめたものではないだろうか? ここにも、未開の荒野が・・・

 私自身の関心は、“文化資本の再分配”という点に帰着するのだろう。学術情報などは、ネット上にアップしてしまえば、みんなでシェアできる方向へ進むと思う。しかし、美術品とか、文化財とかのブツは(不可欠特定資産??)・・・これをシェアする仕組みが「近代博物館」のはずで。場合によると、身ぐるみ剥ぐ、というのは、相当過激なシステムなのかもしれない。税収確保のために、そこまで苦労している、と読むべきか?