『おひとりさまの老後』

 校正原稿をすべて送り出し、明日、また届くまでの束の間の息抜き、というか逃避。
 この本(上野千鶴子『おひとりさまの老後』法研、2007)の評価が、オンラインショップ投稿欄で賛否両論に分かれているのは知っていた。買おうと思ったきっかけは、先日ある必要に迫られて一通りチェックした『みすず 2009年1・2月号併合 読書アンケート特集』。大島洋さんという写真家が、次のように書いていた。

 九十歳になる母親の部屋に整理に行っていたら、雑多なものが積み重ねられた荷物の中から、この本と赤瀬川原平著『老人力』が出てきた。両氏の著作には一切無縁と思われた母親であるから少なからず驚いたし、なるほどだからベストセラーなのだなと妙に納得して、持ち帰った。「寝たきりになっても住みつづけられるか?」とか「ケア付き住宅でいくらあれば暮らせるか」などのページが折り込まれていた。(以下、略)

 それで、私も買ってみることにした。
 前半は、う〜ん、数字が並べられても典拠がないよ〜とか、仮名で事例が色々あがっていても、それって、作り物でないって、どう証明できるの??とか、こちらも、論文・授業で使える?モードで読んでいたのだが、それに、生活水準がちょっと違いすぎない?とか(反発を感じる人は、ここで止まってしまうと思う)、思いながら読んだのだが、後半、特に「第5章 どんな介護を受けるか」「第6章 どんなふうに『終わる』か」は非常に面白かった。実用的というべきか。
 5章の「介護される側の心得10か条」の中の、「介護してくれる相手に、過剰な期待や依存をしない」「報酬は正規の料金で決済し、チップやモノをあげない」。「ひとりのヘルパーさんに家族も友人も介護も・・・という『無限定』な要求を押しつける」のは×。これはすごく大事なことなのだろう。
 6章の、「遺すと困るものもある」に挙げてある具体例には笑えた。遺品整理屋さんの話、東京都監察医務院のお医者さんの講演のお話。要は、「ひとりで死ぬのはぜんぜんオーライ、ただ、あとのひとの始末を考えて早く発見してもらうような手配だけはしておきなさいね」なのだそうだ。
 全体を通じて、生きている間に、どのように人とのかかわりを結ぶか、がこの本の裏テーマのようになっていて、その意味では、上野さんと私では、濃淡がだいぶ違う。
 それはさておき、上記大島さんは、「考えることを回避していることだから、読み出したら切実で、想像を超えて考えさせられるよい機会になった」と書かれているが、実に秀逸な紹介文だと同感する。