水族館教育の到達点(あるいはアジ・サバ問題)

 19・20日、温泉三昧の傍ら、白浜水族館と串本海中公園に行った。白浜水族館が19日、串本海中公園20日。そこで遭遇したある問題。
 白浜水族館には、入って突き当たりに、大きな回遊水槽がある。中に入っているのは、ラベルによると、ゴマサバ、マアジ、モロ、ギンユゴイ、ササムロ、タカサゴの6種類。特徴のあるギンユゴイ、ササムロはじきに見分けられるようになったが、あとは、みんなマアジに見えてしまう。水槽の上のほうに、少しスリムな細長いのがいるので、ゴマサバかモロと思われるが、この2種類の見分けが難しい。

 以前から、ラベルをもとに水槽の中の生き物を識別するのは難しいと思っていたが、サバとアジで悩むというのは、なんだか情けない。しかし、こんなの見分けられるのかな?
 だいぶ粘ったあとで、別の水槽を見ていると、クシバネトゲウミエラの水槽に上から、にゅっと手が伸びてきて、横になったクシバネトゲウミエラの周りに筒を立てて、直立させていた。やがて、横のドアが開いて、お兄さん(たぶん研究者?)が出てきて、カイメン類を水槽に補充している。“とって来られたのですか?”と聞くと、漁師さんに頼んでもらっているのだそうだ。話のきっかけが出来たので、思い切って、あの水槽の見分け方が分からないのですけど、と言ってみた。

 で、“どれがゴマサバとモロなんでしょう?”と、一緒に魚を探してもらった。どちらも、今、あまり入っていないそうで、大半がマアジのようだ。タカサゴは、2匹だけ、まとまっていた。親切に教えていただいたのだが、水族館は、果たして、素人が見て、ラベルと水槽の中の生き物が照合できることを前提に、ラベルをつけたり、生き物を入れたりしているのだろうか。魚は泳ぐので、結構難しいと思うのだ。ラベルは、まさか、飾りじゃないよね。個々の生き物の名前を知ったり、じっくり解説と照合して観察するには、一つの水槽の中には、1種類の魚か、全然、姿かたちの違う魚を入れたほうが、紛れがないのは確かだろう。(味気ないだろうけど)
 水族館の出口に近い解説ボタンをたまたま子どもが押した。「生態展示をとる水族館が多い中で、本館では、分類展示を行っています」という内容の音声が流れていた。それで、一つの水槽の中に、タイ科とかがまとめて入っているようだ。
 水族館は、来館者に何を教えようとしているのだろうか??

 そんな疑問を持ちつつ、翌日、串本海中公園で面白いものを見た。串本海中公園の水族館も、入り口附近の華やかな大型水槽と、トンネル水槽を除いては、基本は非常にまじめな分類展示だ。で、出口附近に、「串本マリンパビリオン」という小冊子が1号100円で買えるようになっている。この中に、野村恵一さんの「国際サンゴ年特別イベント『串本サンゴラリー』の結果」という記事がある。

 串本サンゴラリーは、串本に分布するサンゴ(造礁サンゴ類)の種ごとの写真を集める競争で、目的はサンゴの種名を覚えサンゴにより親しんでもらうことにある。

とのことで、解説書と串本産全サンゴ120種が網羅されている水中サンゴ図鑑下敷、撮影写真を貼り付ける台紙集「マイサンゴ図鑑」を受け取り、サンゴを撮影して、得点を競うのだそうだ。レア度50までの普通種全てをゲットすると、たいていのサンゴの種名が分かるようになるとのこと。

 本イベントは、サンゴの種名を覚える絶好の機会であり、大ブレイクを見込んで500名の参加を予定していたが、実際の参加者は約100名、各月の勉強会参加者は平均5名、マイサンゴ図鑑の審査提出者は14名と、予想外の活気の低さであった。

 サンゴの写真は、ダイビングしないと撮れないだろうから、これはハードルが高い。しかし、ハードルの高さはともかく、サンゴの種名を覚えて、そのあと、どうするのだろうか?
 
 串本海中公園の同じ部屋には、NPO法人日本ウミガメ協議会のポスターが貼ってあった。「ダイバーの皆さん、お持ちのウミガメの写真を貸してください。ウミガメの保護に役立ちます」とある。水族館で学んだ先にあるのは、環境保護活動に参加ないし、協力することなのだろうか?
 若い人には、その道に目覚め、専門家になるという道もあるだろうが、中高年は、どうするのかな? 私たちは、時には水族館に行き、ある時は美術館に行き、またある時は、歴史系の博物館へ行く。行く先々で、ところどころ解説パネルを読み、この魚は何かな?とか一過性の興味を示すわけだが、魚にも、美術にも、歴史にも造詣が深くなる・・・などというのはナンセンスだ。だとすると、多くの来館者にとって、解説パネルやラベルは一体何なのだろうか。博物館のアリバイ?? まさか、ね。

 そんなことをずっと考えていて、昨日、スーパーの鮮魚コーナーで、パックに入ったアジとサバをしげしげ眺めた。ラベルがついていて、こちらのほうが動かないから、よく比較ができる。まさか、鮮魚コーナーで、アジとサバを間違えはしない。いまどきのスーパーは、名前なしに魚を売ることはないだろうし、魚の名前を覚える意味は何だろうか?
 じゃあ、水族館で教えるべきことは、海の生き物の生態なのだろうか??

 このあともエンドレスで自問自答は続くのだが、短くまとめてしまうと、“成人に対する博物館教育の到達点とは何か”という、いつもの問題に行き着く。もっと一般化してしまうと、“成人教育の到達点は何か”であろう。(一般化してしまうと、つまらなくなる感じはするが)
 今日も、簿記の授業を受けながら、つい“アジ・サバ・アジ・サバ・・・・”と考えてしまった。