旅先から

 今、ポーランドのクラコウ(日本ではなぜかクラクフと書かれている、現地ではクラコウと聞こえるが)にいる。無事飛行機も飛び(フランクフルトも悪天候でだいぶ到着は遅れたが)、今のところ、大きな失敗はないまま、予定通り旅を続けている。クラコウのホテルは有料だが、有線ランが使えるので、日記の更新ができそうだ。詳しくは、やっぱり帰国後になるが、とりあえず、備忘録代わりに、今まで行ったところを。
 8月11日、ケルン大聖堂アーヘン大聖堂と宝物館。アーヘン大聖堂はどうしても行きたかったところだったので、なぜか東欧とは逆の西の端へ行った。行って大正解で、すばらしかった。ケルン大聖堂ゴシック様式アーヘン大聖堂は、ビザンチン様式。カール大帝の聖座も見た。

そのあと、ズエルモント・ルートヴィヒ美術館へ。祭壇画や、木彫りの聖像、ステンドグラスのコレクションなど、迷路のような美術館だけど楽しかった。

 8月12日、ベルリンへ移動。まずベルリン動物園と水族館へ行った。先に回った水族館で大興奮! これまでに見た水族館の中では文句なしに最高! 世界中のお魚が見られるのだ。水槽ごとに地域が分かれていて、見たことのない、珍しい魚がたくさん。さらに上の階には爬虫類、両生類、昆虫の展示がある。爬虫類コーナーでまたまた大興奮。マダガスカルの展示などには、爬虫類だけでなく、多肉植物が一緒に植えられている。多肉だけではなく、それぞれの展示ケースに、環境に応じた植物が植えられている。アリの展示もたいへんインパクトがあった。とにかくすごい。

 動物園は広大な敷地。人間が鳥のスペースに入る展示が3箇所あり、「ととりの村」(森だったかな?)というのが旭山動物園のオリジナルではないことを知る。もっとも、ベルリン動物園の鳥はバーッと飛び立ったりはしないのだが。
 そのあと、チックポイント・チャーリー(東西ベルリンの間の門があったところ)とベルリンの壁博物館へ行った。これは東側から西側への逃亡記録。地下にトンネルを掘ったり、熱気球を飛ばして国境を越えたり、の驚きの記録。最後に、ナチ時代の映像フィルムを見た。ドイツ語オンリーなので、想像の域を出ないが、ユダヤ人ゲットーの様子やおそらくワルシャワの建物が次々と破壊されていく壮絶な様子、そして丸裸にされて、ガス室へ並ぶユダヤの人々。よくこんなフィルムを撮って、残したものである。

 8月13日は、まずイースト・サイド・ギャラリーへ。これは西ベルリン側から壁に書いた絵を保存している場所。ベルリンの壁が残っている数少ないポイント。オリジナルの絵はもうボロボロに傷んでいて、修復作業をしていたのが面白い。

 それから、10時開館と同時にペルガモン博物館へ行き、20分ほど並んだ。ここが噂の博物館島・・・ペルガモンの隣は何か大きな博物館の工事中だった。中に入ってこれまたびっくり。なんじゃこりゃ・・・・ネブカドネザル2世のイシュタル門が見事。ギリシア、ローマ期の彫刻もたくさんあった。展示物がとにかくでかい。
 それから文化フォーラム内にできた東西統合後の絵画館(Gemaldegalerie)へ行った。途中のソニーセンターにまたまたびっくり。ガラス張りの巨大なショッピングセンター。Sony Styleと壁面ガラスに大きく書いてあって、ソニーショールームがあるらしい。
 さて、絵画館には、13世紀から18世紀のヨーロッパ美術が集めてあり、特に祭壇画が多い。ブリューゲルの「ネーデルラントの噂」や、フェルメールの作品2点など。地下にほとんど誰も行かないスタディ・ギャラリーがあり、ずら〜っと絵が掛けてあるが、廊下の突き当りには、惜しげもなくルーベンスの作品が掛けてあった。ここは絵の好きな人しかこない、落ち着いて静かな美術館だ。

8月14日、ポーランドへ大移動。ベルリン―クラコウ間10時間強。国境を越えると、アーミー服の兵士に先導された国境警備犬(麻薬取締り犬?)が車内に現れた。ひとしきり臭いをかいで、私のジーンズや靴には犬の臭いが染み付いているので、こちらへ来るかと思ったが、おりこうにも、私のところには来ず、向いの女性のポテトチップスを嗅ぎに行った。彼女はハンブルク在住で、ポーランドのお母さんのところを尋ねるのだという。
 彼女が降りたあと、車内はガラガラ。ベルリン―クラコウ間は鉄道沿線は過疎化が進んでいるようで、建物も駅も工場も、ボロボロ。というか、人家はたまにしか現れず、ひたすら平らなアカマツ、シラカバと雑木林、そして広大な牧草地、麦畑(?)や荒野。ベルリン―クラコウ間に山はひとつもなし。これがポーランド平原か? 10時間、まったいら。
 最後はウトウトして夜8時頃にクラコウへ到着。両替商(カントール)を物色するうち、カントールはみんな閉まってしまった。
 駅前豪華デザイナーホテル(が一泊1万円ほど)に荷物を置いて、隣接の巨大ショッピングモールに入る。これがすごい! 沿線のさびれ具合や駅地下の質素な商店とは比べ物にならないようなガラス張りの豪華ショッピングモールで、たいへん賑わっている。金沢駅の新しいファッションモールと横浜みなとみらい地区を足して2で割ったような、なんというか、ふだん買い物など興味のない私でも、思わず興奮してしまうようなおしゃれなショッピングモールだ。ベルリンもだけど、クラコウも、色彩が鮮やかで素敵な品揃えだ。広大な駅前広場には床面にブルーのライトが埋め込まれていて、夜遅くまで買い物客で賑わっている。

そして今日、8月15日。朝、電車に乗って、ヴィエリチカ岩塩採掘場へ行った。すべてが塩でできた聖キンガ礼拝堂など。ガイドツアーでしか採掘場に入ることはできず、英語のツアーに参加する(日本語は団体用のみ)。塩、塩、塩・・・博物館もあって、これも地下の採掘場跡にある。ここもぜひ行きたかったところ。

同じツアーに参加していた中国人留学生のリリーさん(フランスで2年間絵画の勉強をしているという)と仲良くなって、帰りは、リリーさんといっしょに路線バスで帰る。彼女は大胆で、305系統の路線バスに、あ、これだ!と飛び乗る。乗ってからたぶんポーランド人のお客さんに、車内での切符の買い方を教えてもらっている。私も便乗して切符が買えた。
駅前でリリーさんと別れ、旧市街へぶらぶら。観光客が多く、完全にバカンスモード。聖マリア教会(ゴシック様式)、ヴァヴェル城大聖堂(ゴシック、ルネッサンスバロック様式)へ行く。

ヴァヴェル城の敷地は広々として、ヴィスワ川の対岸や観光船を眺めることができ、見晴らしがよい。広いアプローチの庭園や旧王宮の中庭はたいへん居心地がよく、くつろいでいるうちに旧王宮見学のチケットが販売終了(売り切れ)になってしまった。
美術館へ行こうと歩き出したが、ちょうどトラムの駅に差し掛かったので、ふとした出来心で、NOWA HUTA地区へ行ってみることにした。昨晩、ホテルに置いてあったポケットガイドを見ていたら、NOWA HUTA地区は“the huge Socialist Realist suburb”と書いてあった。どうも未完のまま終わったらしいが、都市計画的に興味を引かれたので、行ってみたいな、と思った。トラムの路線図を見ると、10系統ぐらいトラムが走っているようである。リリーさんのおかげで、切符の買い方も分かったし、ちょうど、今いる駅にNOWA HUTA地区へ向かう1番トラムが通るので、1時間券を買って乗り込んだ。
どんなところかな〜と思っていると、はたしてそれは千里ニュータウンだったり泉北ニュータウンだったり・・・5階建てアパート群(これは千里)、11階高層アパート(これは泉北だ)が広大な敷地に立っていて、広い街路樹のある通りの中をトラムが走っている。NOWA HUTA地区は1947年からソ連邦によって建設が開始されたようだが、現在の建物は、立て替えられたものだろう。当時はレンガ造りだったようだ。NOWA HUTA地区の東側には大きな工場地区がある模様。煙突や大きな工場が見える。アパート群が途切れて、緑の多い地区に入ってきた。終点には何があるのかと思ったら、広場で花をたくさん売っている。その奥は・・・墓地であった。今日の冒険は、これにておしまい。