「きのこのヒミツ」展
昨日は、ほっと一息、というのもあって、午前中の授業が終わってから大阪市立自然史博物館の特別展「きのこのヒミツ」を見に行った。たいへんたいへんお世話になっているSさんの担当ということもあって、これはぜひ見に行かなければ。
金曜の夕方4時、じっくりと時間をかけて展示に見入る大人な人たちが多い。
まず、入ったところで目をひく、タマゴダケの地下再現モデル(茨城県自然博物館蔵)。
カラカサタケの実物大レプリカ。鏡に、傘の裏のヒダが映っている。よく見ると、この鏡、100均で売っている、女子高生用鏡?
マツオウジ等のフリーズドライ標本。博物館での「きのこの展示」というと、昔、鳳来寺山自然科学博物館でたまたま遭遇したキノコ展の印象が強烈だったので(廃物利用のスーパーの食品トレイの上に、生品がずらり)、それとはすいぶん違う、洗練された展示、というのが第一印象。キノコトランプ(こんなの売っているんだ!)やキノコ切手が、標本と並べて展示してあるのも、キノコの生えていたときの姿を思い浮かべるのに有効。陶器製のキノコおもちゃは、余分だと思うけど、ご愛嬌か。
樹脂標本。キノコのように立体感を強く感じるものの展示なら、植物の樹脂標本ほどの抵抗は感じないが、解説書には「研究上の利用の道は断たれている」ときっぱり書かれている。
紙箱に収まったフリーズドライ展示。見ていて一番安心感がある。なぜかな?
で、ここで突然、この解説。
へ〜、台の色で色々区別してあるんだ。でも、焦げ茶と茶色の区別は難しいし、「その他黒い台」というのは、具体的にどれ?と戸惑う。科博の「樹脂硬化標本」というのは、キノコに樹脂を注射器か何かで注入するのかな? さらに細かい突っ込みを入れると、この展示室の解説には、「樹脂抱埋」とあるけど、解説書には、「樹脂包埋」とある。
一番楽しいのが、この変形菌のコーナー。麦わら山高帽をかぶった老紳士が、熱心に拡大レンズを動かして、ガラスケースの中を覗き込んでおられたので、私も真似して覗いてみた。さかさまから撮ったので、写真はちょっとおかしな写り方。この変形菌コーナーは、空くのを待って、次々に覗き込む人多数。
冬虫夏草コーナー。
このあと、本郷次雄、今関六也さんらキノコ研究者による彩色画の展示が続く。で、この原画のコーナーは撮影禁止。ちょっと失敗したのは、禁止コーナーに入る前に、キノコの観察記録図を描くとき、見るときの注意点を書いたパネルが4枚ほどあって、内容がとても面白かったのだが、(展示)解説書に同じ文章が載っているだろうと思って、写真を撮っておかなかったこと。実は、今回の解説書、展示とはまるで違う構成になっていて、展示内容をあとから解説書で確認することはできないつくりになっている。そのことに気づいたのは、帰りの電車の中、というありがちなパターン。今後の教訓として、早い段階で、解説書に展示内容が再現されているか、先に確認しよう!
それで、何が面白かったかと言うと、「キノコにゴミがついているのを、いっしょに書き込んでおけば、あとから、そのキノコが粘液を出していたかどうか分かる」といった数々の注意書きだ。
彩色画コーナーの一角に、今関さんの「キノコカード」が展示されていて、そのカードが、海苔の紙箱に入っていたらしいのが興味深い。
さて、その反対側には、「本日の生のキノコ」のコーナー。これも面白い。
この、豆腐のケースは一体?? アルミホイル同様、単なるクッション材? あいにく、生態展示されているかも?のSさんは不在。
これは、開けてみたくなる。
で、荷物を下に置いて、開けてみた。虫って、この細長いヒジキみたいなヤツか。
う〜ん、こういうものまで研究するのは、大変だろうなあ・・・
これは、モグラの排泄物をあてにして生えるキノコ。これも解説書にあるだろうと思って、パネルやキャプションの写真(メモ)を撮っていなかった。
キノコに生えるカビ。
さて、この前後に、土壌生物学会のパネルや標本が混在(?)していて、戸惑う。土壌生物学会の巡回展が混じっているというのは、最後に謝辞を読んで(というか、謝辞が2つある)分かったのだが、パネルのつくりが全く異なるので、あれ?という違和感はある。ここまで見てきたキノコの展示と、土の中に住む生き物の関係が、広く土繋がり、とか、生態系といった漠然とした感じでは「関係あるんだろうなあ」とは思うが、展示の意図が掴みにくい。
奥のほうには、カーペットを敷いた子ども向けコーナー。WS用が中心なのだろうが、この日は、赤ちゃん、幼児連れの女性たちが、休憩に使っていた。子ども向け絵本も置いてあって、子連れには嬉しいコーナー。乳幼児を連れて博物館に行くのは本当に大変なことで、この赤ちゃんたちも、展示室の途中からはだいぶぐずっていたから、お母さんたちとしてはほっと一息だろう。子育て期のSさんならではの配慮か。
さて、最後に、キノコの採集や標本づくりのコーナー。紙袋、実感あり。昔、対馬合宿でだったか、朝、キノコを見つけて、Sさんに見せようと思って、ポリ袋か何かに入れておき、いざ、見せようと思ったら、溶けていたことがあった。キノコは溶けるんだ、というのは、その1回でしっかり覚えた。だから、蒸れない紙袋!
自作乾燥機。
このきれいなノートは、誰の?
そしてアマチュア研究の勧め。このあたりは、OMNHならではのエンディング。
重箱の隅だが、謝辞に誤植を発見(想定→装丁だと思う)。
ところで、解説書「きのこのヒミツを知るために」は大変意欲的な解説書だと思う。上に書いたように、展示内容をあとから確かめるのには全く不向きだが、アマチュアの観察者・研究者を育てようという意欲に満ち満ちている。欲を言えば、2部構成にして、展示内容の復習部門と、観察・研究ガイドの部になっていれば、さらによかったと思う。
情報量は大変なもので、恥ずかしくてちょっと聞けないような顕微鏡の種類だとか部分の名称、取り扱い方法などが詳しく載っている。旅先でのキノコの乾かし方は笑える。ああ、それ、私は生乾きの靴下乾かすときに、よく使ってる・・・みたいな。
立体物をスキャンする方法、新旧2通りの緯度経度、色見本、J-stageなど、色々と参考になる情報が満載だ。
気になったのは、35頁の表2(菌学会などで活動する菌類研究者が在籍する博物館)リスト。コメント欄の「横須賀市立博物館」→「横須賀市自然・人文博物館」ですよね。鳳来寺山自然博物館のコメント欄の、「小規模館だが、近隣よりキノコに関しては活発に活動」というのは、どういう意味かな?
この特別展に関しては、NPO法人西日本自然史系博物館ネットワーク主催「照明に関する技術交流会」というのがあった。学生を誘って行きたかったのだが、月曜午後は、自分の授業が入っているので諦めた。忙し過ぎて身動き取れないというのが実情だが、こういう開かれた研修の機会があるのは嬉しい。