学芸員養成科目問題(於:全博協大会)

 6月20日愛知大学豊橋校舎を会場に、全国大学博物館学講座協議会(全博協)全国大会が開催され、文科省の栗原さんから「今後の博物館法制度について」のご講演があり、その後、質疑応答が行われた。法改正を巡る最新版のパワポが披露され、先日の館長会議での報告よりは、かなり整理された報告を伺うことができた。
 養成課程の教員にとっては、大学・短大での養成科目がどのように変わるかが、大きな問題(私のところなどにとっては、死活問題)なので、ここ1週間ほど、今後のことについて深く悩んだ。どんな科目がいくつくらい増えるのか、若干の情報を先週、聞いていたからである。で、今日、その内容が公にされた。
 以下は、「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」のもとにある「学芸員養成科目に関するWG委員会」における委員の意見を整理したもの(一覧表)からの抜粋である。平成20年3月31日時点のもの。ここでは、科目名と単位数の新旧対照のみを挙げる。

生涯学習概論 旧1→新2(単位)
博物館概論 旧2→新2
博物館経営論 旧1→新2
博物館資料論 旧2→新2
博物館保存科学論 旧0→新2
博物館展示論 旧0→新2
博物館情報論 旧1→新2(現在の「視聴覚教育メディア論」の内容を含む)
博物館教育論 旧0→新2(現在の「教育学概論」の内容を含む)
博物館と地域社会 旧0→新2
博物館実習 旧3→新3

このように、現行の法定12単位を、21単位に増やそうという過激な提案である。
 以下は、栗原さんの説明と、フロアとの質疑応答のメモからの復元。()内は、後からメモを記憶で補った部分。

栗原 20年12月に検討協力者会議から第二次報告を出してもらい、パブコメの機会を設ける予定だ。21年3月に施行規則の改正と、実習に関するガイドラインの策定、及び、基準の告示を行いたい。【注:基準は、「公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準」のこと】
 平成8年の改正のとき、10単位を12単位に増やしただけだった(のに対して)、今回は現行12単位を22単位に増やそうとしている。【注:全日本博物館学会「学芸員養成のための博物館学の科目内容を考える特別委員会」からは、10科目22単位案が提出されていた】
 普通に考えても、多いなと(感じるが)、委員の意見を積み上げていくとこうなる。(今後)検討協力者会議で詰めて検討し、私学経営とも密接な(関係があるので)、最終的には、16あるいは18単位になるか(と思う)。(また、地方で養成の機会が失われてしまわないかという心配もある)。
 全日本博物館学会からは、22単位の提言をいただいている。図書館の協力者会議と、博物館の協力者会議を(交流してみたところ)、両方とも隣の芝生が青く見えているということが分かった。どちらも、資質の向上を(目指していることに変わりはないが)、司書資格のほうが慎重で、現行20単位を、(委員の意見を積み上げると)28〜30単位になるが、それは無理じゃないか、そもそも教員がいないという議論もあった。学芸員に関しても、保存科学は教員がいるか?という(問題がある)。
 大枠、何単位になるのかを、夏に関係団体と相談して、より具体的な見込みを出したいので、早いうちに意見を言ってほしい。現状のままでいいのでは、という意見もあるが、学芸員の資質の向上は避けて通れない。


司会:(法改正については、)全博協で提言したことが取り込まれたと評価している。(法改正)、省令改正と、WGの意見のとりまとめについて質問を。


Q:指定管理者制度の導入について
 【この質問と回答は非常に重要な内容だったが、これは別記したい】


Q:(WG案は)多すぎる。学生の立場になると、時間割がタイトで、学生のニーズに応じられなくなる。(学芸員養成課程を)維持できない大学(も出てくる)。座学だけでなく、実習を受け入れていただく方策(はないのか?)


司会:全日本博物館学会から、「科目内容を考える特別委員会」(の案について説明していただきたい)。


矢島:この委員会には、養成側だけでなく、現職も含まれる。大学の細かなシステムを斟酌して考えてはいない。現状、不足しているのは何なのか、WGのラインは、情報として知っていた。委員は、立場も考えも異なる。包括的な議論をしたものとは、性格が違う。委員は、それほど大きな隔たりがあるわけではない。現在の科目群から出発しており、現行の資格制度をどう、という根本的議論はしていない。


Q:全般的に、資格を与える段階で、どの程度の知識・技術を身につけるのか? どのレベルが妥当なのか? 大枠な見通し、目安がないと。全体が、今までのやり方に、さらに詳しく知識を教え込む(形だ)。コミュニケーションや、発表能力、実践研究などが(必要ではないか)。


Q:博物館実習の実習先の確保、登録博物館には、実習を受け入れるのを義務付けたらどうか。また、実習で、謝金を受け取る、受け取らないがあるが、博物館を名乗るところは、義務として、後継者の養成に手を貸すように、また、費用のガイドラインを考えてもいいのではないか?


Q:就職できない、狭き門だ。就職できなければ、(学芸員養成は)どうなってしまうのか?就職先の拡大、博物館の登録要件の見直しを先に考えなければいけない。


Q:文科省、検討協力者会議、WGでは、年間何人くらいの学芸員を養成しようと考えているのか? 


A:(そこまでは)考えていない。


Q:現行で、(各大学の修得必要単位の)平均は、21単位くらいとのお話だったが、その中には、選択科目も混ざっている。専門と必修で出すとどうなるか、精査(が必要だ)。(必修では)16単位くらいが妥当では?

 
 以上が、質疑応答の主な内容だ。出口(=年間目標人数)を質問したのは私。WG案が実現すれば、私大・短大のかなりの養成課程は廃止を余儀なくされるだろう。増コマ分の人件費が負担できないからだ。国と検討協力者会議の側には、明確なビジョンが求められるだろう。(医療費の抑制を狙って、医師の養成人数を政策として減らした、という新聞記事を読んだことを思い出した。)
 有資格者が相当の割合で就職できるようにする(それは倍率1倍なのか、2倍なのか、どのあたりが許容範囲なのか・・・)、また、専門家に相応しい待遇を設置者に求める、そのあたりのビジョンが明確ならば、現場の(?)要望を汲んで、私たちは静かに撤退するという選択肢も考えなければならないのだろう。
 学内である先生に相談したら、「だって、博物館自体がもう人気ないでしょう」と言われてしまった。