『生き物屋図鑑』

 訳あって盛口満『生き物屋図鑑』(木魂社、2006)を読んだ。何人か知り合いが出てくることもあり、以前からパラパラとめくっていたのだが、通して読んで、いろいろ考えることがあった。
 一番印象に残った言葉は、「ゲッチョと話すのイヤだな。だって何でもメモるから」。この言葉にはギクリとすると同時に驚きもした。私もよく似た立場にいるが、マイクのオンとオフではないが、取材(聞き取り)する時とそれ以外は、意識的に分けるようにしている。むろん、聞き取りしているときはメモするが、日常会話でそれに類することをしたら、「話すのイヤ」と思われかねないだろう。
 それで、先日某所で聞いた話を思い出した。精神科のお医者さんがなりたての頃、街で出会う人をつい診断してしまって困った、仕事以外で人と関わる場合、意識的に頭を切り替えるようにしているという話だった。
 ゲッチョさんの本を読んで違和感があるのは、私小説的な匂いがあるからなのだろう。このあたりも、ギクリとさせられる。
 そしてもうひとつ、欠落感があるのは、この『生き物屋図鑑』に描かれた登場人物の研究や行動を生み出した時代や社会的な背景が、チラ見せになって気になるからなのだろう。例えば、アンケイさんとタツザワさん。この二人を徹底取材したら、面白いだろうな、とか。