全博協大会にて

 さて、ようやく21日午後の全博協大会の内容について書く順番になった。この日の朝、F先生から教えていただいた検討協力者会議の「新しい時代の博物館制度の在り方について」をPCに保存していったので、会場でこれを見ていると、T先生、N先生お二人がやって来て、ニコニコしながらけん制をかけてくるのである。この日会場で配られた資料の中に、全博協が5月28日付で文部科学大臣宛に出した要望書と、署名を出した大学のリストが掲載されていた。集まった署名は、加盟大学120大学、非加盟大学29大学、計149大学分である(締め切りに遅れた大学2校があり、これを加えると151校分)。国公立大学も10校以上が署名している。T先生などは、はっきりと、大学間での弱肉強食は当たり前だと言われるのだが、国公立大と私学、中央と地方は、同じ条件で戦っているのではない。
 さて、3時過ぎからの分科会は、「討論会:博物館法の改正について」となっていて、まず、文部科学省生涯学習政策局の渡辺徹氏が、パワポと配布資料を用いて説明をされた。この分科会が始まる前に、パワポの打ち出しと、「新しい時代の博物館制度の在り方について」と、教育基本法改正のパンフがセットで配布された。ただ、あの膨大な資料は、事前に読んでいなければ、突っ込むのはかなり難しい。
 さて、渡辺氏の報告で明らかになった法改正のスケジュールは以下の通り。

・ 今後とも趣旨に沿って、検討協力者会議は続けられる。
中教審生涯学習分科会が昨日(6月20日)あり、社会教育法関係は、WGを作って検討する。7−8月に集中して行い、9−10月に何がしかのまとめを出し、WGから報告する。博物館法に関しては、検討協力者会議での検討内容は、大学院、現職養成、登録についてなどで、11−1月に法案を作成、来年の国会に提出という流れになる。

ところで、「新しい時代の博物館制度の在り方について」は6月14日に最終報告が出されたとのことで、この中の学芸員養成に関する記述は、だいぶトーンダウンしている。該当箇所は、以下の通り。

学部の学修で得た知識や基礎的な探求能力を、博物館の職務に活かすための基礎学修として、博物館に関する科目(博物館学)を体系的に学修する必要がある。(中略)
なお、これらを履修することで、博物館職員として最初のステップを踏めるものとし、単位履修者には「学芸員基礎資格(仮称。以下同じ。)」を付与し、各博物館は、学芸員基礎資格を有する者を積極的に雇用し、日常的な職務の遂行による実務経験を積ませることを通じて有能な学芸員の育成に参画していくよう努めることが重要である。(中略)
このように様々な館種が存在する博物館で学芸員として活躍するためには、学芸員資格についても大学の「博物館に関する科目」の修得とあわせて、一定期間(1年以上)の実務経験を要件に含めることが強く求められる。(中略)
上記のことを博物館制度の面から整理すると、学芸員は登録博物館に配置されるものであり、大学における「博物館に関する科目」を履修して「学芸員基礎資格」を付与され、博物館現場での学芸業務を1年間以上経た者が登録博物館の学芸員となることができる制度とする必要がある。
なお、同様の制度には社会教育主事の制度があり、社会教育主事に任用されるには、大学に2年以上在学し62単位以上を修得し、かつ、大学において「社会教育に関する科目」24単位を履修した者で社会教育に関する実務経験が1年以上必要であるとされている。(17-18頁)

なーんだ、単純な、学芸員資格の格下げではないか、とも思う。それなら、「学芸員」「上級学芸員」とグレードアップすれば簡単なことなのに、と思う。しかし、フロアからもツッコミがあったように、この報告書の32頁には、「学芸員資格取得までの流れ(大学卒業者の場合)(イメージ)」という怪しい図が残っていて、“インターンシップ”という言葉は消えているが、「博物館における1年以上の学芸業務の実務経験」という“空白の1年”が描かれているのである。これに対して、“大学院(修士)[博物館学専門課程等]”修了者は、実務経験なしでいきなり、「学芸員資格」が取れるようになっている。最後に「等」がついているところが微妙で、解釈と運用次第では、従来通りの修士号を取った人なら誰でも、となる可能性は否定できない。
ところで、吉武先生が、するどい突っ込みを入れておられた。少し言葉を補って再現すると「社会教育主事は(主事補として大卒すぐで採用されても)なってしまえば(見習い期間も)公務員だが」という問題である。結局、質疑応答では、「今までの制度とどこが違うのか」「学芸員補についてはどのくらい調べているのか」「実務経験の定義は何か」「これまでの学芸員はどうなるのか」といった質問が出され、渡辺氏からは、「まだ決まっていない」という答えが返ってくるばかりだった。フロア側からの提案としては、「学芸員教諭」制度を検討してはどうか等の提案があった。
私は、渡辺さんの報告を聞きながら、作戦を練った。メモは3つ作った。

1. 登録制度の強制力? 絵に描いたモチにならないか。
2. 設置要件の見直し。公立館の場合、現行では教育委員会所管 →法改正後、これに代わる“教育行政の一般行政からの独立”を担保するしくみが必要、国民の文化的諸権利(見たいものを見る、学ぶ権利)の保障
3. 館長の要件。今回の学芸員資格制度見直しの根拠は、館長の問題意識(平成17年度文科省委託調査)。 では、館長問題は検討されているのか。退職教員の非専門職館長や、形だけの非常勤館長問題を取り上げないのは、バランスを欠く。

時間から考えて、1は省いた。答えようがない問題だからだ。場を読んで、3から発言し、迷ったが2も言った。文科省の担当者おふたりに、伝える絶好のチャンスだったので、意図的に「国民」と言う言葉を使ったのだが、ミュージアムはそもそも国境を越えてあらゆる人のアクセスを保障するものだ。国内法では「国民の権利」しか書けないのかどうか、本人的にはそのことが気になった。
 渡辺さんのお答えは、「検討協力者会議でも館長問題は話題になったが、資格を持っているから館長(になっている)ということで、書くことができなかった。現職館長へのマネジメント研修ということで(対応することになると思う)」といったものだった。新博物館法では、まず設置者の義務(責任)を明記すべきだと思うのだが、いかがだろうか。